古書市の外は時雨の一葉忌

古い事になるが、毎年行われる図書館主催の無料の古本市に、一時期復刻本が多数出ていた事があった。著名な作家の作品を、装丁まで初版の状態で復刻したもので、何冊もいただいて帰った。本の状態はすこぶる良くて、読まれた形跡のないものがほとんどだった。その中に一葉の「たけくらべ」もあった。たぶん興味があってセットで購入したものの、読まずにそのまま保存されていたのだろうな、と思いながら開くと、本文がくずし字で書かれていて全く読めなかった。結局そのままで翌年手放すことになってしまった、、、。(2914年冬詠)

浮寝鳥たがひの距離を保ちつつ

数羽の鴨が首を隠すように折り曲げて、緩やかな流れの中を漂っている。眠っているのだろうが、流されていかないということは、水中ではある程度足を動かしているのだろう。それに、くっつきそうでくっつかない。お互いに一定の距離を保っている。眠っているようで眠っていない。眠っていないようで眠っている。ちょうとテレビを見ながら転寝をして、生返事をして叱られる時のような状態だろうか、、、。(2014年冬詠)

市の列捌く男の木の葉髪

冬だから髪が抜け易いと言う事は無いけれど、木の葉髪は冬に分類されている。掲句は昨年の古書市での句。無料とあって、開始30分前には会場の前に行列が出来て、職員が列を捌いている。その髪のなんと心もとない事。横のほうの薄く残った髪を反対側まで被せてある。一生懸命動くものだから、その度に髪がふわりと浮き上がる。あまり動くと抜けるよ、と失礼とは思いつつ、開始まで時間があったものだから、ついつい見てしまった。ごめんなさい、、、。(2014年冬詠)

夜神楽の裸電球ゆれ止まず

古い句です。昔、実家の祭りが11月18、19日だったのを思い出して、引っ張り出してきました。今は祭りと言えば休日に合わせて行われますが、昔は固定された日でしたね。それが実家のある地域では11月18、19日でした。18日が宵祭り、神社の拝殿を舞台に、夜遅くまで備中神楽が奉納されました。もう十分に寒い季節で、着込んで行っても寒く、境内で焚かれる大焚火で温まっては拝殿に戻ったものです、、、。(2000年冬詠)

ゲートボール人来るまでの焚火かな

霧深い朝、河川敷にあるゲートボール場の傍で、赤々と燃える大焚き火。数人のお年よりが焚き火を囲んで談笑をしている。さらに次々とお年よりがやってくる。しばらく見なかったが、まだゲートボールは続いていたのか、と思った昨年の句。今朝、遠くから煙が見えて、同じような時季なので、ゲートボールだと思いながら近づいたら、中年の女性が一人焚き火の傍で体操をしていた。他に人は無し。どうやら単なる反故焚きの人のようだった、、、。(2014年冬詠)

白菜を立てて並べて道の駅

一つ一つ白いレジ袋に入れられた大きな白菜が、道の駅の広いスペースに立てて並べてあった。確かにこのほうが新鮮さは保たれそうだ。スペースが限られる街のスーパーではこうは行かないだろうと思った。ひと目見てどれも新鮮で大きさも揃っていたが、それでも買う人は身を乗り出すようにして、目星を付けた物を袋ごとエイヤッと引き抜くのだった、、、。(2014年秋詠)

軒下の日差集めて冬すみれ

掲句は昨日と同じ、岡山野田屋町界隈での句。高い建物が増えてくる中で、皆さん工夫して植物を育てられている。道路から少し下がったビルの白い壁に反射した日差が当たるところに、立体的に配置されたプランター、ちょうど水を貰ったばかりの花が輝いていた。あ、冬すみれとしていますが、実は栽培種のスミレ、色鮮やかなパンジーです、、、。(2014年冬詠)