夕暮や男無口に野火放つ

そろそろ田圃の準備が始まっています。それに伴ってあちこちで畦を焼く姿を見かけるようになりました。掲句、古い句で会社帰りに見かけた景です。こちらは珍しくて見ているのですが、向こうにとっては知らない男、邪魔でしかないのは良く分かります。夕暮れに差し掛かった暗さの中で、点けた火に照らされた男の顔が憮然として見えるのは煙のせいかも知れません、、、。(2003年春詠)

枯芝の中にも緑三鬼句碑

一人の人間の目の及ぶ範囲なんて知れていて、知らないところで着々と季節は進んでいきます。枯芝もそうです。よく見るといつの間にか枯色の中に緑が混じるようになっているのです。掲句は津山文化センターのホール前の芝生にある西東三鬼の句碑です、、、。(2003年冬詠)

花売の老婆の放つ大くさめ

街中の行きつけだった散髪屋に決まって声をかける花売りの老婆があった。鏡に映る風景の中に花を満載したリヤカーを引く老婆が現れる。見ていると店の前でリヤカーを止め、表戸をちょっとだけ開けて御用聞きをする。空いている女の子が出て行って何らかの花を抱えて戻ってくる。これがいつも繰り返される鏡の中の風景だったが、この日は違っていた。リヤカーを止めると同時に老婆が店の中まで聞こえる大きなクシャミをしたのだ。それで気づいた女の子が慌てて出て行った。あとはまたいつもの風景が戻ったのだが、それだけで何だか楽しい一日になった、、、。(2003年冬詠)

火襷の備前平鉢雪起し

いやあ、降りましたね。県北(の平野部)は久しぶりの大雪になりました。寒波もすぐには抜けないようなので、しばらくは湿った日々が続きます、、、。掲句も古い句で、雷も記憶に残らないような、たぶん可愛いものだったのでしょう。ですが、冬の雷は落ちると怖いそうですよ。家じゅうの電化製品が壊れたと聞いたことがあります、、、。(2003年冬詠)

大太鼓足裏に響き初祓

古い句を引っ張り出しています。遅ればせの新年の句ですがご容赦を。いつもお参りする落合の木山神社、拝殿に並べられた床几に腰かけ、頭を垂れて祝詞を聴きます。ドンドロドンドロと低い太鼓の音が床を伝わって足裏から響いて来ます。祝詞はよくわからないのですが、太鼓の音と相まってそのリズムが何んとも心地よいのです、、、。(2003年新年詠)

左義長の残り火明し川向

今は休日に合わせた行事が多いですが、本来は今日が「とんど」と言う所が多いのではないでしょうか。掲句は川を挟んだ隣村のとんど、河原で大々的に行われます。夕暮れに散歩に行く頃には、ちょうどその残り火が、、、。(2003年冬詠)

反古焚きのけむり真つ直鳥帰る

鳥たちが北へ帰るのはいつも突然で、気がつけば姿がなくなっている。この時も気づいたのは夕方、土手の上から見下ろす川面に、昨日まで居た鴨の群れはなかった。広い田圃の向うに、反故焚きの小さな火が見え、夕暮れの空へ煙が上っていた、、、。(2003年春詠)