初蛙するりと箒抜けにけり

一度に春が来たような日だった。そろそろやっておかなければ手がつけられなくなる庭の手入れ、手始めに落葉を掃いていると箒から零れるようにするりと残ったものがある。もう一度掃こうとして保護色の蛙であることに気付いた。「おいおい、気をつけてくれよ!」と言わんばかりの顔をしていたので「ごめ~ん」と一枚パチリ。初蛙(2012年春詠)

欠落の記憶たどりて日永かな

同窓会余談。顔が判らない人があろうことは予想していたが、そんな彼らと話していて、記憶に完全に欠落している部分があることに気付かされた。これはショックだった。今日一日なんとか思い出そうとしたが、どうしても出てこない。そんな事があったような気はするのだが、、、。辛かったことや悲しかったことは消えればよいが、楽しかったことまでが消えて行くものなんだ。(2012年春詠)

同年と見えて恩師や雪の果

還暦同窓会それにしても寒い日だった。雪のちらつく中での記念撮影、「雪は意外と大きく写るんですよ」と雛壇に並んで更に数分待たされた。おそらく全員が薄くなった髪を風に煽られ、顔の強ばった散々な写真が送られてくるのではなかろうか。やっとY先生にお会いできた。俳句に評をいただいたりしながら、お会いするのは卒業以来だった。先生は中学の頃より痩せられ、素敵な女性に変身されていた。ロビーに入って来られたときには同窓生の誰かかと思ったほどだった。案の定Y先生は人気の的だった。写真は先生方が先に帰られ、終盤にさしかかった頃、それぞれに重ねた歳が見えるので小さく。還暦同窓会は二度と来ない。地元に残りいつも幹事を務めてくれる方々に感謝。帰る頃にはまた雪が舞い始めていた。(2012年春詠)

さまよへる老犬ひとり朧の夜

我家の最年長のプードル。既に目は見えず、耳も聞えず、かろうじて鼻が利く程度で一日の殆どを寝て暮すが、目覚めると、時に鳴きながら、時に黙々と部屋をさまよう。あちらにぶつかりこちらにぶつかりしながら、やがて自分の居場所までたどり着き、また眠りに就く。さすがに最近は調子の悪いことも多く、いつ死んでもおかしくないとは思っているが、食事をきちんと食べてさまよっているうちは大丈夫ではなかろうか。人間と同じで、食べたことを忘れるのは困り物だが・・・。(2012年春詠)

ハローワーク出でてしばらく春愁に

失業認定日、朝からハローワークへ。書類を提出後しばらく待機、簡単な面接を受け書類に不備もなく失業中と認定される。これで数日中に銀行口座へ給付金が入金される。次の認定日用の書類を受け取り終了となるが、何度も足を運ぶのは面倒なのでついでに職業相談を受ける。これが結構待たされる。たぶん定年退職ですぐに働く気も無さそうに見えるから後回しになるのだろう、と思うのは偏見だろうか。待たされる間に受付を見ていると、老若男女さまざまな年代のさまざまな人がやって来る。これがすべて失業者なのか、今自分もその一員なのかと思うと複雑な気持ちになる。行く度にその思いが強くなる。相談員の当たり障りのない話に礼を言って外に出るとドッと疲れが出たような気がする。(2012年春詠)

光りつつ解けつつ白く別れ霜

今朝の風景。霜が降りた寒さの中にお彼岸らしい空が広がっている。実際は五月の連休ごろにも霜が降りることがあり、猫の額ほどの家庭菜園に植えた野菜苗が被害を受けることがある。その頃の霜を別れ霜と言うのだろう。まあ、季節を先取りするのが俳人だから、許されるかな。(2012年春詠)

初蝶のまだ飛べずゐる庭の冷

今年はいつまでも寒い日が続く。庭に置いている浮球に一匹の蝶がとまっている。今日で三日目になる。春になって初めて見た蝶が初蝶なら、これが初蝶。初蝶の持つイメージの華やかさからはほど遠く、同じ場所で同じ形でじっと耐えている。(2012年春詠)

ごみ出しに眩しき春の日の角度

ごみ出しの仕事は定年後に仰せつかった訳ではない。ずいぶん日の出が早くなったとも思うが、毎日が日曜日の生活で、起きるのが遅くなったのも事実である。ごみ置き場までは車で数分の距離、東にむかう運転席の、ちょうど真正面から受ける朝日は眩しい。(2012年春詠)

一本の百花に余る椿かな

3月11日合歓の会吟行「宏己のぶらりぶらり」での句。今回は早島駅から早島公園を吟行、「いかしの舎」で句会。早島公園に登り、この見事な椿を見たころから雨に降られ、早々にいかしの舎へ移動した。「雨は俳人の味方」とおっしゃる方もあったが・・・。(2012年春詠)早島公園の椿