凍ゆるむ朝一番の鶏鳴に

どの家か分からないのですが、近所の農家に一軒だけ鶏それも雄を飼っているようで、朝の散歩の途中で時々コケコッコーと大きな声が聞こえてきます。寒い間は聞こえなかったので、夜明が早くなった、ということなのでしょう、、。(2016年春詠)

夕暮や男無口に野火放つ

そろそろ田圃の準備が始まっています。それに伴ってあちこちで畦を焼く姿を見かけるようになりました。掲句、古い句で会社帰りに見かけた景です。こちらは珍しくて見ているのですが、向こうにとっては知らない男、邪魔でしかないのは良く分かります。夕暮れに差し掛かった暗さの中で、点けた火に照らされた男の顔が憮然として見えるのは煙のせいかも知れません、、、。(2003年春詠)

氏神へ続く裏木戸やぶ椿

氏神様の東側に高い板塀があって、木戸が設けてある。その向こうに大きなお屋敷が見える。いつも大きなお屋敷だなあと思いながら、木戸を開けるのは憚られるので、塀の上の屋根を眺めていた。ある日ちょっと散歩の足を延ばして、そのお屋敷の向こう側を通ってみた。門側から見ると、開放的な庭の続きにその木戸があり、その向こうに、当たり前だが、今度は氏神様の屋根が見えていた、、、。(2016年春詠)

峡一つ煙らせ春の時雨かな

散歩の途中で遠くに中国山地の山々が見える。それほど天気は悪くないのに、山と山の間が白くなって見える。この気温なら雨、時雨だろう。春だから春時雨か。なんて事を考えながら歩くのです、、、。(2016年春詠)

浅春の移動図書館楽鳴らし

近くの道の駅、移動図書館の開設場所となっているのでしょう、時々見かけます。掲句の時はちょうど到着したばかり、屋根の上のスピーカーから大きな音で子供向けの音楽を流していました。自分で図書館まで行けない人にとっては貴重な機会なのでしょう、雨の中で本をさがしている人を見かけたこともあります、、、。(2016年春詠)

避暑避寒縁なき暮し春炬燵

結局のところ、炬燵ほど便利で経済的な暖房器具は無いのではないだろうか、と都合の良い事を考えながら冬の間を炬燵の中で過ごした。もとより避暑避寒に縁がないのは経済的要因によるところが大きいのだが。もうしばらくはお世話にならなければならない、、、。(2016年春詠)