地の色のちちろ這ひ出る古畳

夜はさすがに涼しくなりました。外に出ると鈴虫に蟋蟀、いかにも涼し気に聞こえてきます。その蟋蟀、どこから入って来るのでしょうね、部屋の中へ。気が付けば出してやるようにはしているのですが、、、。(2019年秋詠)

プレハブの組合事務所ちちろ鳴く

社歴からも建てたときから中古だったのだろうと思われるプレハブの組合事務所。夏は暑く冬は寒い。入口の引戸からしてまともには開かない。閉めれば斜めに閉まって隙間が開く。入れば今にも抜けそうに軋む床。背もたれの破れた壊れかけのパイプ椅子。インクの匂う輪転機と山積みされたビラ。紫煙の渦、、、。入社したのはまだ組合活動華やかなりし頃だった、、、。(2002年秋詠)

自動ドア開きちちろの声高し

「お先に」、「お疲れ様」、このやり取りを何度か繰り返すとたちまち一人きりになった。途端に肩の力が抜け、ため息が漏れる。去年の今頃は毎日がこのくり返しだった。四国への業務の移転話は、消える可能性がないことはなかったが、その確率は日毎に下がって行った。私などよりよっぽど不安であるはずの部下たちが元気に働いてくれている中で、私は一人、いつも逃げ出したい思いに駆られていた。気が付けば秋は深まり、自動ドアの外には虫の声が溢れる闇があった。(2000年秋詠)