白南風や掃けば転がるだんご虫

家の周囲のコンクリート部分を掃除するとダンゴ虫が転がる。生きているものも転がるが、丸まったまま屍骸となったダンゴ虫もたくさん転がる。まるまって乾いて殻だけになっている。掃き集めたそれを見ていて、中学生の時に採集に行ったサンヨウチュウの化石を思い出した。石灰岩の表面を磨くと、ちょうど丸まったダンゴ虫が集まったような模様でサンヨウチュウが現われる。もしかしてダンゴ虫の祖先はサンヨウチュウなの?、と思って調べてみたが、そんな記述はどこにもなかった、、、。(2014年夏詠)

老犬の眠り白南風かぎりなく

去年は夏を越せないかなと思っていた老犬アリス、夏を越し、秋、冬、春を越し、再び夏を過ごしています。全くの自然体で、白南風の吹く中で、ピクリとも動かず眠っている姿を見ると、今年こそホントにダメかなと思うのですが、またしてはムックリと起き上がり、大きな声で餌を要求するのです、、、。まあ、食べているうちは大丈夫かな、、、。(2012年夏詠)

白南風や大鉄塔に大落暉

句とは関係のない話です。午後のプールはお年寄りが多い。と言うとお前も年寄りだと叱られそうですが、私などよりもう少し年配のお年寄りです。泳ぐよりもウォーキングとおしゃべりを楽しんでおられます。そんな中のよく一緒になる八十前ぐらいの老人、先日ロッカールームでこんな話をされていました。「若い頃に、わしの爺さんがよう椅子に座って着替ようたんですがな。それを見て、ほんに横着な、なんで立って着替えんのかと思ようりました。それが何のこたあない、気がつきゃあわしが同じようにしとりますがな。爺さんが座って着替ようた意味がやっとわかりましたわあ、ハハハ」「ハハハ」と一緒に笑ったが、何と答えたらよいのか、、、。(2000年夏詠)

白南風やのれん褪せたる定食屋

近畿自動車道を門真で降り、外環へむけてしばらく走ったところにその店はあった。のれんの褪せた色からも新しい店でないことは分かったが、今まで気付かなかったのが不思議なようなところだった。入ると広くはない細長い店内にはテーブルがいくつか、端っこの天井に近いところには小さなテレビが点けっぱなしにしてあった。ちょっと小太りの熟女店員に迷わず日替わり定食を注文、しばらくして定食を運んできた店員は、元気な声とともにエプロンのポケットから、マヨネーズとドレッシングの大瓶を取り出して置いて行った。味は良かったので、もう一度行きたかったがそれっきりになってしまった。(2003年夏詠)

白南風や校舎に尖る避雷針

与謝野鉄幹、晶子夫妻が岡山県北を訪れたのは昭和八年夏である。その時の歌碑が県北各地に残っている。その旅の最終日に訪れ、晶子が講演を行った女学校が現在の美作高校である。正門を入ったところの植え込みに晶子の<美しき五群の山に護られて学ぶ少女はいみじかりけれ>の歌碑がある。正門から道を挟んだところにある体育館からは、夏休みの間も絶えず少女たちの声が聞えてくるが、対照的に歌碑のある校舎側は、夏休みの学校の静寂に覆われている。かつては女子高でしたが、今は共学で男子もいます。(2001年夏詠)

白南風やからから回る土竜除け

白南風も黒南風も海が近いところの風と思いますが、海から遠く離れていても気分としては白南風や黒南風を感じられるのです。そして好きな季語でもあります。それがこういう句になりましたが、海に近い方どうでしょうか。明るい日差の中、強くもなく弱くもなく吹き続ける風、畑には土竜除けのペットボトルで作った風車が数本、カラカラ、カラカラと鳴り続けている。(1999年夏詠)