落蝉の落ちしばかりか足動く

あれだけ鳴いている蝉も落蝉として目にする数は少ない。採ろうとして採れることが少ないからか、見るとつい触ってみたくなる。しゃがんでよく見るとまだ足が動いている。触ってもそれ以上の動きは無い。一応横の草むらに移動させてやる、、、。(2016年秋詠)

校庭に声の戻りて秋暑し

掲句は2011年の9月です。昨日の朝、近所の小学一年生の女の子が大きなランドセルを背負って登校していました。少し大きくなったかな、「行ってきます!」と一学期と違って声が大きい。「おはよう、言ってらっしゃい」と声をかけて、ふと考えるとまだ八月です。昔なら必死で宿題をしていた頃。ちょっと可哀そうかな、、、。(2011年秋詠)

山一つ越えて故郷空は秋

中学時代の同窓会で田舎まで帰って来た。国道313号線を走り、田和山トンネルを抜けると道は一気に谷底へと下って行く。石灰岩地帯の切り立った山が両側から迫って来る。この山を見ると故郷が近い事を実感する。やがて道は開け、高梁の街に出る。空は高く、明らかに秋の様相を見せている。山が豊かで、水が豊かで、人心も豊かで、故郷は有難い、、、。(2016年秋詠)

雨止んでまた鳴り始む威銃

威銃が鳴るのは散歩コースから吉井川を挟んだ南側の山際に広がる田圃。山に近く日暮も早いからだろう、北側のこちらよりも田植も稲刈も少し早い。威銃は八月に入ると鳴り初め、約一か月続く。きちんとタイマーで管理されているらしく、朝は七時に鳴り始め、間隔は十五分、夕方六時には鳴りやむ。雨の日に聞こえなかったのは単なるこちらの勘違いだったのかも知れないが、雨が上がって散歩に出ると、待っていましたとばかりに、ズドーン、、、。(2016年夏詠)

衣被食はすと言はれそれつきり

町内の役員をしていた頃、年に二回ほど役員会と称して一杯飲む会が開かれていた。少人数で、酒もつまみも年寄の町内会長が自ら手配してくれ、一番下っ端の私はごちそうになるだけと言う有難い会だった。会長にしてみれば、我々役員を手なずけておこうという魂胆だったのかも知れない。ある年の春先、コンビニのおでんで一杯飲んでいた時に、会長から「この次には芋が採れるからそれで一杯やろうや、うちの芋は美味しいで」と声がかかった。本来が食いしん坊なので、こういう言葉は忘れない。楽しみにしていたら、それより前に会長は身体を壊し、それが元で亡くなられてしまった。翌年には私も役員を引退し、芋で一杯の夢は結局まぼろしとなってしまったのである、、、。(2016年秋詠)