青嵐トトロ出さうに木々揺れて

やたらと敷地の広い会社だった。少人数になってからは植栽の手入れもままならず、夏になれば大木に青葉が茂った。強風が吹くとその青葉が煽られて大きく揺れる。遠くから見るとまるで「隣のトトロ」のワンシーンのように見えるのだった。どんぐりの木もあった。(2009年夏詠)

朝つばめ川面の影にふるるほど

時に左、時に右と舵をとりながら、実際時々は水面に触れているのだろうと思えるぐらいの位置を滑って行く。天候や風向き、気温によって餌となる虫のいる高度が異なるのだろう。いつもこうとは限らない。それにしても、すごい動体視力だと思う。(2009年春詠)

道一つ外れ春子の榾並ぶ

「春子」は春に採れる椎茸。生家から二十メートルも行けば山に入る。たいていの道は知っているが、こんな所にと思うような所に覚えのない道があった。少し入ると行き止まり、深い日陰の中に椎茸の榾木が何列も並んだ場所に出た。ぷくぷくと丸いのや、開いたのや、瑞々しい椎茸が所狭しと生えていた。あまりに美味しそうなので、中でも美味しそうな所を見繕って数本頂いた。もちろん誰の山かは分かっているので、後でお礼をしておきました。(2009年春詠)

ふるさとは間近に笑ふ山ばかり

私の生家は小さな川を挟んで両側から山が迫ってくるような山の中にある。右を向いても山、左を向いても山、山の上に空があり、山の向うに知らない町がある。そんな幼少期だった。子どもたちは春になると弁当を持って連れ立ってお花見に出かけた。鴬が鳴きつつじの花咲く中でひとしきり遊ぶとお腹が空いてくる。時計を持っている訳ではなく、意見が一致したときがお昼となる。そもそも弁当が目的のようなものなので、食べるとすぐに帰途につく。そして、人里まで戻ってくると畑の大人たちに笑われるのである。時刻はたいてい午前10時か11時ごろだった。(2009年春詠)

上ばかり見てつまづきぬ花の下

倉敷酒津吟行句。酒津へは小学校の遠足で行ったきりで、土手を越えた記憶と、ぬかるんだ道があった記憶だけで、風景などは全く覚えていなかった。たぶん当時とはそうとう変っているのだろうと思いながら歩いていたら大きな石碑があった。う~ん、かすかに見たような記憶が、、、。散りかけた桜に見とれていたら走り根に躓いてしまった。(2009年春詠)