通勤途中の街角のあるお宅、昔は平屋の古い日本家屋で、老夫婦が住んでおられた。見るからに質素な佇まいのお宅で、老夫婦もまた静かな二人だった。いつの頃だったか、そのお宅が鍼灸院に変わった。変わったと言っても、入口の軒下にそれと書いた小さなボール紙がぶら下がっているだけで、お宅にとりたてて変わった様子は無かったが、老夫婦の代わりに白衣を着た中年の男性を時々見かけるようになった。それからまたしばらく時が過ぎて、そのお宅は取り壊され、二階建ての今風の家が建った。今度入られたのも老夫婦だった。ご主人は滅多に外で見かけることは無かったが、いかにも退職したばかりのような、まだ肩の辺りに力の入った管理職上がりといった感じの方だった。奥様は小さな方で、せっせといろいろな花を植えられ、一年も経つと家はすっかり花と緑に覆われた洒落た佇まいとなった。小さな門に絡まって鉄線の花が咲いたころ、ふと表札を見たら、鉄の字が入ったずいぶん硬そうな名前だった、、、。(2011年夏詠)