朝楽し甕の目高の寄り来れば

出勤前に甕を覗くと目高が寄ってくる。これが結構可愛い。眺めているとニ分や三分はすぐに過ぎてしまう。黒や赤や白や、最近は「ダルマメダカ」なんて言うのもいるらしい。今年は日に何度も覗くので目高も困っているかもしれないな。「餌もくれないで、いいかげんに働けよ!」と、言いたそうに見えなくもない。(2010年夏詠)

蚊柱の出来始めなる五六匹

いつもの散歩コース。土手の並木が途切れたあたりによく蚊柱が出来る。まだこの時季に出来る蚊柱は可愛いもので、五、六匹が頼りなげに宙に浮いていることが多い。風が吹くとふっと消えるが、またふわふわと集まってくる。(2010年夏詠)

花万朶空に日陰のなかりけり

数限りなく詠まれてきた桜をどう詠んでも類句類想の域を出ないだろう、とは思いつつ毎年詠んでしまいます。写真は毎日眺めて通る土手の桜です。引っ越して来たのも四月でした。私の背丈ほどの木が慎ましく花をつけていました。その木がこんなに立派になりました。私が見てきたぶんだけ桜も私を見てきたのだと、ふとそんな事を考えました。昨日が満開でした。(2010年春詠)

種ひたす机の上の洗面器

会社で三年間グリーンカーテンに挑戦しました。長老のHさんにリーダーをお願いし、一年目は試行錯誤でなんとか物にし、二年目は前年の経験を活かして立派なグリーンカーテンに仕上げました。三年目をスタートしたところで事業所の移転計画が持ち上がり、すでに苗を育て始めていましたが中止としました。苗は各自持ち帰り、自宅で育ててもらうことにしました。掲句は二年目、ネットから得た知識をもとに、前年採って置いた糸瓜や朝顔の種を浸し、会議用の机の上で毎日観察していた頃の句。ISOの活動の一環で始めたグリーンカーテンですが、他の何をやった時よりも全員の和を感じた楽しい活動でした。Hさんお世話になりました。皆さんそろそろ自宅で活動を始められている頃でしょうか?新しいお仕事は決まりましたでしょうか?(2010年春詠)

春時雨那岐連山をかくしけり

梅の里は津山市の梅の名所。展望台まで登ると、岡山県北一帯の山々がよく見える。結構高い位置なのだろう、山の向うに次の山が見える。那岐山は岡山県と鳥取県に跨る標高1255メートルの山、梅の里から見えるかどうか、正確なところはわからないが、見えるとすればこちらかと思われる方向が雲に覆われ、雨に煙っていた。那岐連山と言うかどうかも怪しいものですが、、、。(2010年春詠)

冷たさのひとかたまりや落椿

落椿を手に取ると重さと共にその冷たさに驚く。倉敷安養寺吟行での句。山門をくぐったところに一本の椿があり、その下に数個のまとまった落椿があった。思わず触れてみた。余談になるが、安養寺近くの山で鴬が鳴いていた。実にきれいなホーホケキョだった。今住んでいる岡山県北のこのあたりの鴬はホーホケキョケキョと鳴くことが多い。<正調の鶯鳴けり安養寺>(2010年春詠)