神主を呼んで、そこらじゅうにある神棚の御幣を新しくしたり、祝詞をあげてもらうような行事があった。子どもの頃の記憶にあるだけで、母に言われて思い出したが、父が亡くなれば当然私に回ってくる訳で、私が神主の相手をすることになる。やって来た神主は私と同世代だろうか、挨拶もそこそこに羽織を脱ぎ、袴姿で準備に入った。御幣用に用意しておいた竹を切ったり、半紙を切ったりと汗をかきながらの作業が続く。その間に世間話が入る。「お父さんにはずい分お世話になりました」と神主、「そうですか」と私、から始まってひとしきり父との思い出話や地域の話が続いた。作業が一区切りつき話にもほんの少しの間が出来た。すると突然、「私の事、忘れられとるでしょうね。おわかりになりませんか?」と神主、「えっ?」「ほら、小学校で一年下で、中学校の時同じ部活でお世話になった○○です」私は思わず絶句し、目の前の現実としての神主と、まき戻した記憶とを整合させるのにはしばらく時間が必要だった。そうだ、彼は神主の家の息子だった。その彼が神主になっていても何の不思議もないのだった、、、。(2003年夏詠)