すぢかひに燕掠める路地の空

今年の初燕は3月13日の午後でした。例年より十日ぐらい早い勘定になります。聞き覚えのある声に見上げると、曇り空の高い所に確かに燕の形、、、。掲句は古い燕の句です。掲句のように路地を掠めるのはまだ先ですね、、、。(2003年春詠)

音たてて酸素出てゐる日永かな

しばらくこのシリーズで、、、。父の病室での句です。父は薬のおかげで夢とうつつの間を行き来しているような状態でした。高階の病室は静かで、窓には午後の日差しがあふれています。聞こえるのはバルブから出る吸入用の酸素の音だけです。この音さえなければ、こんな平和な部屋は、、、。(2003年春詠)

冴返る病院裏の常夜灯

病院のそれも裏口の常夜灯です。父が亡くなる前、すでに医者から告げられた余命の日数は越えていました、、、。いつまでたっても反省ばかりで、今ならもっとしてやれる事があったと思うのですが、過ぎてみないと分からない、、、。(2003年春詠)

菜の花や線路伝ひに猫の道

今年も線路の土手に菜の花が咲き始めました。一度撒いてから毎年咲いてくれますが、以前に比べるとちょっと小さくなった感じがします。たぶん土に養分が無くなってきたのだろうと思います。掲句、その昔の古い句です、、、。(2003年春詠)

この猫も親戚すじや春の昼

ここに家を建てた頃は側を通る道路も通行量が少なく、捨て猫が何度もありました。それも毎年同じ毛並みの同じ顔の猫です。ある時ちょっと離れた酒屋さんに買い物に行ったら、なんとその捨て猫と同じ顔の大きな猫がいるではありませんか!出て来たお店の女将さんを見ると、あっ、いつも家の側を通るおばさんだ!なるほど、、、。その後ほかの人に聞いた話では猫好きのそのおばさんは実家がその酒屋さんで、毎日我が家の側を通って店を手伝いに行っているとか、、、。(2003年春詠)

死人てふ人だかりあり冴返る

徒歩通勤をしていた頃の古い事です。田圃の向こうに見える神社の傍に朝から人だかりがあり、パトカーの赤色灯が回っていました。何だろうと思っていたら、ちょうどそちらから戻って来た知り合いが、行き倒れの死人らしいと教えてくれました。寒い朝のことでした、、、。(2003年春詠)