糸切れて春の鯉へと戻りけり

また老釣師の登場です。句から結果は見えていますが、初めてその瞬間に出会いました。ちょうど竿の先が動き、老釣師が立ち上がって竿に手を伸ばしたところでした。まだ静かなままの水面に鯉の姿はありません。間合いを計っていた老釣師は、突然ぐいっと竿を合わせます。足場を確認するように後を振り向いた老釣師は、私を見つけるとニヤッと微笑みました。私は見つからないように観察したかったのですが、これが勝負を分けたようです。ゆっくりと竿を立て、糸を巻きながら倒していく。しばらくこれをくり返すと、やっと水面に頭部が現れました。赤みを帯びた口回りの色がきれいでした。鯉は老釣師に全身を見せつけるようにゆっくりと身を翻すと、また水中に潜って行きました。50センチは越しているでしょう。そんなやり取りが何回かありましたが、突然ビシッと音がして糸が切れました。静寂が辺りを覆いました。鯉はしばらくその場にいましたが、やがて悠然と姿を消して行きました。老釣師は私に、「遊ばれてしまいましたわあ」と微笑みながら言うと、ゆっくりと竿を仕舞い始めました、、、。私が見ていなかったら上がっていただろうと思うとち、ちょっぴり申し訳ない気がしました、、、。(2013年春詠)

「糸切れて春の鯉へと戻りけり」への2件のフィードバック

  1. 家の近くの太田川でも大きな鯉が泳いでいます。
    それを狙って釣り糸を垂れる姿も見かけますが釣れている所に遭遇した事は有りません。
    春の鯉って俳句の言葉ですか?

    1. いいえ、「鯉」だけでは季語になりませんので「春の鯉」とし、ゆったりと泳ぐ春らしい鯉にしてみました。

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