万緑の山寺鳥の声ばかり

昨年アンソロジーに書いた本山寺での句です。私の田舎もそうですが、雑音が少なく耳を澄ませば(耳を澄ませなくても)四季折々の鳥の声が聞えてきます。鴉、鶯、ひよどり、ホオジロ、ホトトギス、、、。先日寄ったときには啄木鳥の大きなドラミングの音が響いていました。一瞬何かの工事の音かと思いましたが、近づけば止み、離れればまたしばらく続くのです、、、。(2014年夏詠)

万緑や死したる後は散骨に

故郷を離れ家を構えると、そこから新しいお付き合いが始まります。葬式のお手伝いもその一つで、ずい分させてもらいました。土葬の経験こそありませんが、自宅で葬儀のすべてが行われていた頃は大変でした。祭壇や飾り物の準備に一日、当日も受付や駐車場の整理などと一日取られます。葬式の前だったか、後だったか忘れましたが、一人に返って万緑の中に立った時、ふと散骨のことを思いました。まだ父も母も故郷に健在だった頃なので、さして深く考えてのことではありません。その後父を送り、さらに母を送り、そろそろ次を考えても良い頃になりましたが、その選択肢はずい分増えて来ましたね。(2000年夏詠)

万緑やカヌーに紅き救命衣

国道53号線を岡山へ向かうと、福渡あたりの旭川で良くカヌーを見かける。私は門外漢だが、カヌー仲間では結構有名なスポットらしく、毎年来ると言う取引先の若者もいた。今日中に仕事を済ませて、明日は有休を使ってカヌーを漕ぎます、なんていうスケジュールを羨ましく思ったものだ。国道を挟んだ山の緑と川に浮ぶカヌーの、ことに救命衣の赤が鮮やか。門外漢の私にも気持ちよさそうに見える。(2002年夏詠)