山里の雲の速さも晩夏かな

やっと梅雨が明けたと思っていたら、暦の上では夏もあと少し、残り十日となりました。晩夏です。切り立った山の谷底のような田舎の村では、日暮も早いし、日向日陰の明暗が際立ってきます。蜩が鳴き、見上げた狭い空を行く雲も、なぜか急いでいるようなのです、、、。(2012年夏詠)

風鈴の仕舞はれてゐる葬の家

私がここに住み始めた頃は、葬式は故人の家で行うのが普通だった。さすがに墓穴を掘るなんて作業は無かったが、町内の長老の指示に従って祭壇の準備やら飾り付けやら買物やらと動き回ったものだった。やがてそこに葬儀屋さんが入るようになり、葬儀屋さんの指示に従えば良くなってずいぶん楽になった。と思っていたら今では故人の家での式まで無くなってしまった。唯一残っているのは、亡くなられた当日に故人の家に集まって行うスケジュールの打ち合わせだが、密葬、家族葬ということになればそれも無しとなるだろう。掲句、その集合した故人のお宅での句、、、。(2014年夏詠)

ネッシーのやうに顔上げ池の蛇

ネッシーにはずいぶん夢を見させて貰いましたが、その夢はいとも簡単に崩れてしまいました。いやいや、世の中にはまだ不思議なことが残っているぞ、ナスカの地上絵、いつだったか網にかかった巨大生物の屍骸、、、と元少年は今も夢を夢見ているのです、、、。(2014年夏詠)

蝉の声アツシアツシと聞えけり

前にも書きましたが、県北にはクマゼミはいません。その代わりがアブラゼミです。クマゼミの声に比べるとるとアブラゼミの声なんて可愛いものです。掲句はクマゼミ、昨年夏の暑い倉敷吟行でした。クマゼミの声も、ついこんなふうに聞えてしまったのでした、、、。(2014年夏詠)

風迷ふほどに戸を開け夏館

先月の倉敷吟行のときに、初めて「大橋家住宅」を見学しました。見ごたえがありました。広い屋敷の部屋という部屋が開け放たれて、風鈴の音が心地よく響いていました。街の中にあってこれだけの風が通るなんて、日本家屋の極致ではないかとまで思いました。できれば部屋の中央でちょっと昼寝をしたかった、、、。先日までヘッダーに使っていた写真が、その大橋家の倉敷格子です。その時に書けばよかったのですが、記事のほうが遅れてしまいました、、、。今日は大暑、わが夏館もあちこち開け放っていますよ、、、。(2014年夏詠)

白南風や掃けば転がるだんご虫

家の周囲のコンクリート部分を掃除するとダンゴ虫が転がる。生きているものも転がるが、丸まったまま屍骸となったダンゴ虫もたくさん転がる。まるまって乾いて殻だけになっている。掃き集めたそれを見ていて、中学生の時に採集に行ったサンヨウチュウの化石を思い出した。石灰岩の表面を磨くと、ちょうど丸まったダンゴ虫が集まったような模様でサンヨウチュウが現われる。もしかしてダンゴ虫の祖先はサンヨウチュウなの?、と思って調べてみたが、そんな記述はどこにもなかった、、、。(2014年夏詠)

LEDライトに微熱熱帯夜

予定通りに梅雨が明けました、、、。朝涼の中に在る陶の椅子は見た目も涼しいですが、熱帯夜の中に在ればLEDライトだって熱が気になるものですね。実はLEDライトだって熱は持っています。特に家庭用の100V電源で使うLED電球、光っている部分はそうでもないですが、根元のほうには電子回路が入っているので、うっかり触ると火傷するぐらいの熱さになります(安物のLED電球だからかも知れません)。掲句、枕元のスタンドのLED電球からジワジワと襲ってくる熱気、読書もままならない、、、。(2014年夏詠)

朝涼や青き龍ゐる陶の椅子

どこから貰って来たものか、我家の庭に一つだけ陶椅子があります。丸い筒状の、安物であることは一目瞭然ですが、我家の庭にはちょうど良いぐらい。中国製かなあ、龍の絵も近くで見ればずいぶん安っぽい筆遣いですが、遠目で、木々の緑に囲まれているのを見れば、結構涼しく感じるものです、、、。(2014年夏詠)