鳶のあと夏蝶来たるにはたづみ

河原の大きな轍の跡に前日の雨で水たまりが出来ており、その傍に水を飲みに降りた鳶が立っていた。いつも見かける鳶で、どこに居ても一定の距離に近づくと必ず逃げていく。その日も近づくと案の定逃げてしまった。いつもと違っていたのは、その後へ大きな黒揚羽が降りてきたことだった。人間に対してはこちらのほうが図々しい。近づくとギリギリで逃げて、離れるとまたすぐに戻って来る。同じ水を飲む、その鳶と揚羽のギャップが面白かった、、、。(2014年夏詠)

てんと虫指より空を好みけり

テントウムシの仲間はだいたいがアブラムシなどの害虫を食べる益虫らしい。何と言っても代表的なナナホシテントウムシは配色もいいし、動き回る姿も愛らしい。噛み付かれることもないし、刺されることもない。でもって、掌で遊ばせていると指から空へ、、、。もっとも、遊ばせていると思っているのは人間だけで、テントウムシにとっては迷惑に違いないのだが、、、。(2009年夏詠)

ゲートボール一人球打つ晩夏かな

散歩の終点と決めている河川敷公園の端に二面のゲートボールのコートがある。以前は通る度にボールを打つ音やお年寄の歓声が響いていたが、流行がグランドゴルフに移り、急激に衰退して行った。それでも時折一人でトンボ(T字型のグランド整備用の道具)を引いている人の姿があり、今でもコートには草一本生えていない。掲句、その整備をする人と同じかどうか遠目で分からなかったが、夕方のコートで一人練習する人を見かけた時の句、、、。(2012年夏詠)

山里の雲の速さも晩夏かな

やっと梅雨が明けたと思っていたら、暦の上では夏もあと少し、残り十日となりました。晩夏です。切り立った山の谷底のような田舎の村では、日暮も早いし、日向日陰の明暗が際立ってきます。蜩が鳴き、見上げた狭い空を行く雲も、なぜか急いでいるようなのです、、、。(2012年夏詠)

風鈴の仕舞はれてゐる葬の家

私がここに住み始めた頃は、葬式は故人の家で行うのが普通だった。さすがに墓穴を掘るなんて作業は無かったが、町内の長老の指示に従って祭壇の準備やら飾り付けやら買物やらと動き回ったものだった。やがてそこに葬儀屋さんが入るようになり、葬儀屋さんの指示に従えば良くなってずいぶん楽になった。と思っていたら今では故人の家での式まで無くなってしまった。唯一残っているのは、亡くなられた当日に故人の家に集まって行うスケジュールの打ち合わせだが、密葬、家族葬ということになればそれも無しとなるだろう。掲句、その集合した故人のお宅での句、、、。(2014年夏詠)

ネッシーのやうに顔上げ池の蛇

ネッシーにはずいぶん夢を見させて貰いましたが、その夢はいとも簡単に崩れてしまいました。いやいや、世の中にはまだ不思議なことが残っているぞ、ナスカの地上絵、いつだったか網にかかった巨大生物の屍骸、、、と元少年は今も夢を夢見ているのです、、、。(2014年夏詠)