野分後雲の混ぜられゐたりけり

今年は台風が来ないのかと思っていたら、次から次によく来ますね。先日の10号で被害があった岩泉、懐かしい感じがして記憶をたどって行ったら、学生時代に確かに行ったことがある場所でした。駅前の旅館に泊まり、次の日の朝、バスで龍泉洞という近くの鍾乳洞へ行きました。その旅館、相部屋になったのですが、お互いに無口で、とうとう一晩、一言も話をしませんでした。今思えばおかしな話ですが、思い出すきっかけが水害の報道だったのは残念なことです、、、。(2014年秋詠)

電気柵囲ふ一村落し水

八月も今日で終わりです。この時季になると毎年ニュース映像が流れるのですが、近くの棚田ではもう稲刈りが始まったようです、、、。私が子供の頃の猪垣は木や竹で出来ていました。それがトタン板に代わり、今は電気柵です。電気柵になって山里の風景はずいぶん変わりました。トタン板の頃はなんだか人間のほうが囲われているような感じがして嫌でしたが、電気柵になってずいぶん解放感があります。人間と動物がうまく住み分けられるのが理想ではありますが、、、。(2015年秋詠)

鵙鳴けど気にせぬ老爺浮子眺む

昨年のちょうど今頃、車でやって来て田圃の脇の水路で魚を釣る老人があった。近くの樹上で鵙がしきりに鳴いていたが気にならない様子で椅子に座り、釣りに没頭していた。車はシルバーマークの付いた新しい軽のワンボックスで、後には何本も釣り竿が並べて載せてあった。次の日も同じように鵙の鳴く下に老人の姿があった。その日はちょうどこちらを向いていたので、挨拶をしたら返事が返ってきた。鵙の声が聞こえないのではないらしい。そんな事を思いながら、何の気なしに車の後を見たら、昨日綺麗だった後が大きくへこんでいた。何だか気の毒で、何だか可笑しかった。今年も鵙の声が聞こえだしたのでその事を思い出して、そろそろまた会えるかと楽しみにしていたらやはり現れた。挨拶をして、念のために車の後を見ると、綺麗に治っていた、、、。(2015年秋詠)

秋日傘いきなり足を止めにけり

昨年の八月、倉敷吟行での句。前を行く日傘を眺めながら、何んとか句にしようと後を歩いていたら突然止まった。危うくぶつかりそうになったが、おかげでこんな句が出来た。今年は25日が倉敷での句会だった。今年も暑い日だった、、、。(2015年秋詠)

生きるもの生きて稔りの秋となる

旱続きで弱った木が葉を落としている。これも生きる術で、まずは不要の葉を落として必要な水分量を減らすのだろう。落ちた葉は紅葉して落ちた葉と違い、パサパサに乾いている。触れればボロボロと崩れてしまう。そうして生き残ったものだけが稔りの秋を迎える、、、。(2015年秋詠)

台風裡五時のウエストミンスター

東日本では台風被害が続いていますね。掲句は昨年、台風通過中の午後五時に、風に乗ってウエストミンスターのチャイムが聞こえて来た。そう言えば長年勤めた会社のチャイムもウエストミンスターだった、、、。(2015年秋詠)