鵙鳴けど気にせぬ老爺浮子眺む

昨年のちょうど今頃、車でやって来て田圃の脇の水路で魚を釣る老人があった。近くの樹上で鵙がしきりに鳴いていたが気にならない様子で椅子に座り、釣りに没頭していた。車はシルバーマークの付いた新しい軽のワンボックスで、後には何本も釣り竿が並べて載せてあった。次の日も同じように鵙の鳴く下に老人の姿があった。その日はちょうどこちらを向いていたので、挨拶をしたら返事が返ってきた。鵙の声が聞こえないのではないらしい。そんな事を思いながら、何の気なしに車の後を見たら、昨日綺麗だった後が大きくへこんでいた。何だか気の毒で、何だか可笑しかった。今年も鵙の声が聞こえだしたのでその事を思い出して、そろそろまた会えるかと楽しみにしていたらやはり現れた。挨拶をして、念のために車の後を見ると、綺麗に治っていた、、、。(2015年秋詠)

秋日傘いきなり足を止めにけり

昨年の八月、倉敷吟行での句。前を行く日傘を眺めながら、何んとか句にしようと後を歩いていたら突然止まった。危うくぶつかりそうになったが、おかげでこんな句が出来た。今年は25日が倉敷での句会だった。今年も暑い日だった、、、。(2015年秋詠)

生きるもの生きて稔りの秋となる

旱続きで弱った木が葉を落としている。これも生きる術で、まずは不要の葉を落として必要な水分量を減らすのだろう。落ちた葉は紅葉して落ちた葉と違い、パサパサに乾いている。触れればボロボロと崩れてしまう。そうして生き残ったものだけが稔りの秋を迎える、、、。(2015年秋詠)

台風裡五時のウエストミンスター

東日本では台風被害が続いていますね。掲句は昨年、台風通過中の午後五時に、風に乗ってウエストミンスターのチャイムが聞こえて来た。そう言えば長年勤めた会社のチャイムもウエストミンスターだった、、、。(2015年秋詠)

抜きし稗抱へて漢無口なる

田圃も色づいて来ました。稗もしっかりと伸びています。最近の田圃を見ると3種類に分かれます。(1)人が入ってたえず稗を抜いている田圃(2)人は見かけないが稗は生えていない田圃(3)稗も雑草も伸び放題の田圃。掲句は(1)の田圃です。(2)は農薬かな、、、?(2015年秋詠)

銀漢に覆ひ尽くされ峪の村

子供の頃の実家周辺には街灯がなかった。だから家々の灯りが消えると集落は真の闇に包まれる。真上に、Ⅴ字に切り立った山を橋脚のようにして、銀河が横たわる。流星が見える。蚊取線香を点けて縁台に寝転がっていると時を忘れた。飽きることはなかった、、、。(1998年秋詠)