昨年はとうとう見ることが無かったが、禁猟区ではない吉井川沿いの散歩コースには、以前は鳥を狙うハンターの姿が度々あった。猟犬の声が聞こえ、猟銃の乾いた音がすると心が痛んだ。姿は見ずとも河原に空の薬莢が落ちており、水鳥が消えていることも度々あった。掲句の時はたまたま撃ったばかりの鴨を提げて茂みから土手に上がってきた男に行き会った。鴨はもう死んでいるのだろう、男に足を提げられて伸びきった首に、艶々と鮮やかな青い毛と、うつろな眼があった。男の眼は血走っていた。二度と見たくない光景だった、、、。あれから十五年、今は猟師の姿を見ることはほとんど無い、、、。(1998年冬詠)
投稿者: 牛二
枯野行く一つの影となりて行く
枯野を歩いていた。上空の声に見上げると、はるかな高みに鳶の姿が見えた。空から見ると、人間なんて小っぽけな物なんだろうと、そんな事を考えた。眼を落したその先に、自分の影が小さく見えた、、、。(2012年冬詠)
山茶花やその日延ばしの外仕事
はい、冬はこんなものです、、、。(2010年冬詠)
名園に続く裏木戸石蕗の花
昔はもっと広かったそうだからその名残なのだろう、名園とその古い旅館は高い板塀で仕切られていた。地元の旅館に行くことなど滅多にないが、前日から宿泊していた知り合いを迎えに行った朝、少し周囲を歩いてみた。名園側からは何度も見たその板塀を、裏から見るのは初めてだった。名園との近さに、なるほどと感心しながら歩いていくと木戸があった。もしやと思い、開けようとしたが、残念ながら釘で打ち付けられているらしく、開かなかった。それではと、少しだけ開いた隙間から覗くと、やはりそうだった。見慣れたところを裏から見るのは新鮮で、もう少し見たかったが怪しまれそうで身を引いた。木戸の傍らに石蕗の花が咲いていた、、、。(2010年冬詠)
雪雲や水色重き山の湖
垂れ込めた雪雲は重そうです。それを映す湖の水の色も重く硬そうに見えます。暑いのも苦手ですが、寒いのはもっと苦手です、、、。(2000年冬詠)
霜柱踏む新しきスニーカー
鰤の荒提げて獺気分かな
頼まれて鰤の荒を買って帰る途中にふと出来た句。きっとその前にカワウソの映像かなんかを見ていたのだろう。もっとも頭の中ではカワウソもラッコもビーバーも、果はヌートリアまでも、イメージが重なってしまっている、、、。(2010年冬詠)
冬の鵯夕日に声を絞りけり
テレビで鵯の渡りの映像を見ました。四国の佐多岬から九州へ向けて渡るところでした。群をなして鳴きながら渡っているところは鵯らしいと思いましたが、上空に鷹が現れると一斉に急降下して、海面すれすれを滑るように渡っていくところは、鵯には悪いですが、鵯らしからぬと思ってしまいました、、、。それより何より、鵯も渡鳥だったのですね。俳句では鵯は秋の季語ですが、私の生活環境の中では冬のほうが印象の強い鳥です、、、。(2008年冬詠)
ボロ市も覗き句会の時待てり
歳時記の「ボロ市」は東京世田谷のボロ市、掲句のボロ市は句会へ行く途中で出会った岡山の商店街の小さなボロ市ですが、まあ良しとしましょう。古本屋も好きですがボロ市も好きで良く覗きます。古い物、懐かしい物に出会うとついつい見入ってしまいます。高知の朝市にもそんなお店がたくさんあります。町内の旅行で行った時、つい夢中になって集合時間に遅れたことがあります。この時は幹事でしたので冷や汗物でした、、、。(2010年冬詠)
冬ざれや鉄扉肩にて押し開く
人の少ない、ただっ広い工場は寒い。覚悟を決めて防寒着を羽織る。事務所を出ると薄暗い廊下が待っている。やたらと長細い工場の、これまたやたらと長細い廊下、はるか向こうに非常口の明りが見える。廊下を歩く間に防寒着の前を留め、手袋を嵌める。安全靴が重い。屋外への古い鉄扉はやたらと重く、冷たい。手袋を嵌めた手に、その冷たさを感じながらノブを回し、肩の力で思い切り押し開く。途端に北風が入ってくる、、、。(2010年冬詠)