黒南風や死せば更地となり売らる

私がここへ来た時にはもう一人暮らしだった、上品に年取ったお婆さん。図書館にあった古い合同句集に名前を見つけてから俳句の話をするようになったが、その頃にはもう認知症が始まっていて、同じ事を何度も何度も聞かれるのには閉口した。ある日「良いものをあげます」と言って、奥のほうから「西東三鬼読本」を持ってきて下さった。今でも私の大切な本だが、結局これが形見になってしまった、、、。そのお屋敷は長い間空家になっていたが、とうとうこの春から取り壊しが始まった。先日、梅雨の晴間に久しぶりに通ったら、きれいな更地になり、ちょうど二人の男が「売地」と書いた看板をたてているところだった、、、。(2013年夏詠)