家出猫戻らず三日春の雪

夜出してやると朝には戻って窓のところで待っている。「ゆき」はそんな猫だった。何日か帰らないことは前にもあったが、それが猫の習性と理解していた。しかしその時は違った。一日目から変な予感がして、通勤の途中に姿を捜したりした。次の日も帰らず、三日目の朝が雪となった。大きな春の雪がしきりに降っていた。なぜだか解らないが、もう帰ってこない。ふっとそんな気がした。(2011年春詠)

春雪や単線電車灯し来る

真冬に降る雪よりも春の雪のほうが記憶に残るのはそのはかなさからだろうか。掲句は姫新線の院庄駅と美作千代駅との間、降りしきる雪の中を、前照灯を灯した電車が大きくカーブしながら近づいて来るのが見えた。まるで映画のワンシーンを見るようだった。※姫新線は電化されていないので、本当はディーゼル車です。(2000年春詠)