鵙鳴けど気にせぬ老爺浮子眺む

昨年のちょうど今頃、車でやって来て田圃の脇の水路で魚を釣る老人があった。近くの樹上で鵙がしきりに鳴いていたが気にならない様子で椅子に座り、釣りに没頭していた。車はシルバーマークの付いた新しい軽のワンボックスで、後には何本も釣り竿が並べて載せてあった。次の日も同じように鵙の鳴く下に老人の姿があった。その日はちょうどこちらを向いていたので、挨拶をしたら返事が返ってきた。鵙の声が聞こえないのではないらしい。そんな事を思いながら、何の気なしに車の後を見たら、昨日綺麗だった後が大きくへこんでいた。何だか気の毒で、何だか可笑しかった。今年も鵙の声が聞こえだしたのでその事を思い出して、そろそろまた会えるかと楽しみにしていたらやはり現れた。挨拶をして、念のために車の後を見ると、綺麗に治っていた、、、。(2015年秋詠)