小六月門扉くぐりて猫戻る

久しぶりに門扉をくぐって帰って来る猫を見て思い出した昨年の句。この頃はまだ家に来たばかりで、身体も小さかった。門扉の下の隙間をするりと器用に抜けて入って来れた。今は一人前(一猫前)の大きさで、そう簡単には抜けられない。二三度やり直して、無理やり身体をねじ込んで入って来る、、、。(2023年冬詠)

うとうとに釣られうとうと小六月

プールの会員カードの隅っこにロッカーの番号が書いてあって受付のカウンターに行くとすぐに「行ってらっしゃいませ」とその番号の鍵を渡してくれる。早い時だとカウンターに行く前から鍵を用意して待ってくれている。これはなかなか気分が良い。先日、入口からカウンターを見ると人影がない。??と思いながら近づくと内側の椅子に座って俯くいつもの女性。「こんにちは」と言うと慌てて鍵を取ってくれました。掲句とは無関係です、、、。(2023年冬詠)

時に竿立てて釣師の小六月

鯉釣りの季節のようです。河原に車を止め、一人で何本も竿を立てている方を見かけます。おなじみの老釣師は常に一本だけ、鯉との勝負に集中されています。去年は70Cm、80Cmの鯉を何度も見せてもらいました。見事なものです、、、。(2017年冬詠)

老釣師ゐねむることも小六月

例の老釣師、今年は元気で、11月に入ってから連日のように川向こうに姿がある。残念ながら川向こうなので声もかけられず、岩のように動かないその姿に遠くから会釈だけして通り過ぎる。狙いはもちろん大鯉だろう。昨年は「鯉は11月に入ってから」と言いながら、11月に入るとさっぱり姿を見る事がなくなり、心配しながらの掲句になってしまったのだった、、、。(2014年冬詠)

亡き友を想ふ日溜まり小六月

小さな六月とはよく言ったものだ、と思いながら暖かい十一月の河原を歩いていたら小六誠一郎さんを想い出した。早いもので、もう一年が来ようとしている。入院先の病院から最後の電話を頂いたのが11月19日だった。「病院からですが、今日帰れることになりました」「そうですか、おめでとうございます」「それで、申し訳ないのですが、五の日句会のほうはもう少し休ませてください」「もちろん、体調が良くなってからでいいですよ。ゆっくり休んでくださいね」と、そんな会話を交わして切ったと思う。最後になるなんて、思っても見なかったから、、、。日溜まりのような笑顔と大きなお腹を想い出すが、俳句を離れると、きっと厳しい社長さんだったのだろう、、、。先日会社のあった場所を通ったら、通るたびに見ていた屋根の上の看板が、別の社名に変わっていた。わかっていた事だが寂しかった、、、。(2013年冬詠)