古本を選る春陰に息ついて

ちょっと一息、最初から買おうという気はサラサラない。奉還町のアーケード街、古書店の前に置かれたワゴンに一冊百円の古本が並んでいる。文庫本には記憶にあるタイトルがいくつもある。もう一度読んでみたい気もするが、家に帰ればそう思って手に入れた古本が山になっている、、、。(2014年春詠)

駅裏のベンチにぎやか鳥の恋

岡山駅西口です。西口もずいぶん変わりました。吉備線と津山線が一番端っこのホームから出るのは今も同じのようです。出張帰りに薄暗い西口の売店でカップ酒を買って、上司と二人津山線の最終便を待ったことがありますが、今の西口、まして昼間の西口にはその時の面影はまったくありません、、、。(2014年春詠)

自転車の出れば空つぽ花あせび

散歩の途中にある道路沿いのお宅、働き盛りの両親と高校生の男の子が一人いる。まず作業服姿のお父さんが車で出て行き、続けてヘルメット姿のお母さんが勢いよくバイクで出て行った。少し間があり、玄関に鍵をかけるのは高校生の男の子、カーポートの自転車にまたがり前かごに鞄を放り込むと、そのまま何事もなかったように自然に出て行った。ぽかんと口を開けたようなカーポートが残った、、、。(2014年春詠)

蒲公英の球体欠けて行く真昼

タンポポの種が風に吹かれて球体を離れていく様子と、海の中の藻に産み付けられた卵から孵ったばかりの稚魚が藻を離れていく様子はよく似ていると思う。その様子は、まるで最後までくっついている一点を自ら振り払うような仕草をしているように見え、離れると同時に力が抜けたかのように後は風まかせ、水まかせで漂って行く。自然はうまく出来ている、、、。(2014年春詠)

近寄れば鎌はごめんと蛙鳴く

活発に動くにはまだ気温が低いのだろう、蛙はまだ草の根元でじっとしていることが多い。土手の菜の花が育ちすぎて圧迫されそうなので、少し整理しようと鎌を進めるとなにやら悲鳴のような声がする。刈った菜の花を掻き分けると小さな蛙が出てきた。おいおい大丈夫か、とひっくり返してみたがどこにも傷はない。ああ良かった、と元に戻すとのそのそと四肢を使って菜の花の間へ隠れて行った。動きは遅い。草刈はもう少し待って、ということだろう、、、。(2014年春詠)

花筏いづれ大海焦るなよ

遭難して無人島に流れ着いた人が空ビンに手紙を入れて海に流す。やがてそれが海を渡り人の目に付き無人島に救助の船が来る。なんて言うような物語が昔の雑誌にはよく載っていました。少年は同じように空き瓶で手紙を流すと誰かに届くかも知れないと何度もビンを流しましたが、あのビンはどこへ行ったのでしょう?大海へ出たまま、いまだに漂っているのかも知れませんが、海がよごれる原因になりますので、良い子はまねをしないでください、、、。(2014年春詠)