黒犬の背に留まりて雪となる

夕刻の散歩で久しぶりに出会った人、会えば犬に声をかけてくれる。「やあ、だいぶ歳を取ったなあ」と尾を振る犬を撫でて、「がんばれよ!」と言い残して去って行った。半年ほど前になるだろうか、人づてにその人が重い病気で岡山の病院に入院されていると聞いていたので、正直出会って驚いたのだが、犬にかけた「がんばれよ!」の一言が、私にはご自分に対する覚悟の言葉のように聞えて、しばらくその後姿を見送った。「がんばってくださいよ!」、、、。(2013年冬詠)

図書館の窓広々と遠雪嶺

先週の寒波でとうとう山が白く見えるようになりました。掲句は昨年の冬、津山市図書館からの景。ビルの4階にある図書館の北側の広い窓からは遠くの山並が見えます。普段はどうってことないのですが、雪が降るとなんだか急に山が近づいて見えるのは不思議です、、、。(2013年冬詠)

舞ふ雪の風に礫となる夕べ

立春とともにやってきた寒波で今日(五日)は朝から雪でした。落ちては融ける、明るくも寂しい雪です、、、。掲句は昨年の雪、雪ぐらいと油断して傘を持たずに出た夕方の散歩、途中から五百円玉ほどもあるような牡丹雪に変ってしまいました。おまけに風、こうなると大変なんです。眼鏡に頬に、容赦なくぶつかって来ます。痛いというか冷たいというか、、、。(2013年春詠)

雪残る常行堂の萱の屋根

本山寺が続きます。常行堂は本堂と三重塔の間にあります。茅葺の古い屋根には、生えた草が枯れて、雪と一緒に残っています。部分的には補修もされていますが、葺き替えまでは難しいのでしょう、、、。名前が常行堂ですから、かつては多くの修行僧が行をしていたお堂なのでしょう。閑散とした中で一人、往時の華やかさに想いを馳せるのも良いものです、、、。岡山県の中山間部には本山寺だけでなく、修行の場であった古い寺が何ヶ所もあるようです。(2011年冬詠)

傘の雪ガード下まで来て落とす

雪の日は徒歩通勤と決めていました。会社までは20分ぐらいかかったでしょうか。会社のすぐ手前に高速道路のガードがありました。いつもの路地を抜けて国道を渡り、このガード下まで来て傘の雪を落すのです。雪にもよりますが、20分も歩くと傘には重いぐらいの雪が積ることがありました。それをバッサリ落すのも小さな楽しみでした、、、。(2002年冬詠)