北風やコークス匂ふ街の空

まだ務めていた頃、北風の強い冬の日に外に出るとどこからともなくコークスの匂いがしてくる事がありました。冬雲の隙間から時々薄日が差して、隣の工場の金属の旗竿がゆれる旗紐に打たれてカンカンと音を立てている。そんな日です。昔のストーブの、暖かい何だか懐かしい匂いです、、、。(2016年冬詠)

解体のビルの槌音暮早し

近くにあった元工場兼ショールームのような建物でした。長い間に表の広いガラスが割れ、スプレーでの落書きが目立つようになっていました。その解体作業、三日ほどだったでしょうか、きれいな平面が出来上がったのは。解体の技術に感心したものです。あれから一年、その後はいまだに平面、、、。(2016年冬詠)

竹垣をこぼれ山茶花まつ盛り

昔、この地に引っ越してきた頃、近くに小さな造り酒屋がありました。高い煙突があって、表の広い入口を入ると染み付いたお酒の匂いがして、声をかけると奥から上品なお婆さんが出てこられる酒屋さんでした。ほどなく造るのを止められ、しばらく売店だけをされていましたがそれも止められ、古い建物を一掃して竹垣のあるしゃれたお屋敷が出来上がりました。思い起こせばその新しい家になったのも、もう十年以上前になるのです。奥へ奥へと路地に沿うその竹垣が少し崩れて間から内側の山茶花が零れ、、、。(2016年冬詠)

杣道や風倒木に冬朝日

山の中のお寺、駐車場脇に地図があって、国道に出る来た道とは違う道が書いてある。ちょっと冒険心が働いて走ってみたら行けども行けども山の中、何年も前に台風ででも倒れたものだろう、半ば苔むした大木に朝日が当たっている。大丈夫かなあ、引き返すにも車を回せるところが無いし。と、不安なままずるずる走っていると突然山が開けて一時停止の標識、やれやれ今回も無事だった、、、。(2016年冬詠)