近寄れば離れ川原の春の鴨

河川敷公園の芝生や土手の草が芽吹き始めると、鴨たちは地上に上がってその芽をついばむことが多くなってくる。何とか邪魔をしないでその側を通りたいと思うのだが、鴨たちは毎日見ていても人畜無害の人間と犬とは思えないようで、ある程度まで微妙な距離を保っているが、それを越えると一斉に飛び立って、水面へと退避していく。逃げなくてもいいのに、と思いながらしばらく歩いて振り向くと、もう元の辺りに戻っていることが多いが、、、。(2014年春詠)

水草生ふ光かがよふ所より

昨年の暮あたりから散歩の途中で時々釣をしている三人組に会うようになった。三人ともたぶんマレーシア人かなと思う東南アジア系の色黒の痩せた若者で、寒い中で防寒着姿で釣をしている姿は見るからに寒そうで、彼らは絶対に雇い主に搾取されているのだろうと考えてしまう。「こんにちは」と言えば「コンニチハ」と頼りなさそうな返事が返ってくるが、それ以上の質問は理解できないようなので挨拶だけで通り過ぎるようにしている。暖かくなって良かったね、ここより向こう岸のほうが釣れるらしいよ、と教えてやりたいのだが、、、。(2014年春詠)

園児らの帰りて雛さびしさう

めずらしく雛の句がありました。昨年の二月、倉敷市観光休憩所での句です。休憩所の隅に段飾りのお雛様があり、ちょうど訪れていたお揃いの服の園児たちが賑やかにしていました。句会が始まる頃にはその子たちも帰り、休憩所はいつもの静けさに戻りましたが、なんだかお雛様はみんな寂しそうに見えました、、、。今年も同じ頃その休憩所で句会をしましたが、今年はなんと、休憩所を占領するほど大勢の園児が訪れていて、いやもうお雛様も大変、、、。(2014年春詠)

春昼の鴉水飲むにはたづみ

河川敷の公園に深い轍がある。普段はただの轍だが、雨が降ると水溜りになる。天気の良い日だった。前日の雨で出来たその水溜りの側に、一羽だけ降りた烏が水を飲んでいた。別に、そこで烏が水を飲もうが水浴びをしようがどうでも良いことなのだが、人間としての目から見ると、すぐ側にきれいな川があるのに、あえて突然に雨で出来た水溜りを水飲み場にすることは考えられないことで、不思議な気分で眺められた。という、どうしようもない句、、、。(2014年春詠)

かつて城ありし跡とや山笑ふ

もう三月、早いですね、、、。私が散歩するのは吉井川の北岸です。その散歩コースの終点と決めているところに嵯峨井堰という大きな堰があります。その対岸にせり出すようにそびえている山を嵯峨山と言います。いろいろと歴史を紐解いていくと、その昔この山上にも城があったらしい。たぶん砦のようなものだっただろうと想像は出来ますが、そう知ってから眺めると、確かに川向こうの崖は急峻で、頂上からの見晴らしも良さそう。作州盆地一円が見渡せそうな気がします。一度登ってみたいと思っていますが、その調べたときの情報では、車で登れる道はないみたいで、、、。(2014年春詠)

春愁や犬に白髪の増えて来し

早いですね、もう二月も終わりです、、、。犬だって歳を取ると白髪が目立つようになってくる。もともとが真っ黒な犬なのでよく分かる。鼻の下の口の周り、耳の中、足の裏の肉球のところ。人間の年齢で言えば、さしあたり私ぐらいになるのだろう、私の増えて来た白髪と良い勝負になってきた。順当に行けばあの世へ行くのは犬のほうが先だが、もしかしたらその前に介護が必要になるのかも知れない。そんなことを考えていると、ちょっと春愁の気分にもなってくる。介護するのも大変だろうなあ、何しろ30キロを越えているからなあ、、、。(2014年春詠)

初雲雀空にきのふの雨の色

気づけば空に雲雀の声がしている。まさしく春が来たことを喜んでいるように聞こえる。この辺りでは、二毛作をされているところはほとんど無く、田圃は春先に田起しをした後は、田植の準備が始まるまで平穏が保たれる。そのわずかな期間が雲雀の子育ての正念場となるのだろう、必死に空へ登っては下ってくる。では、田植の準備が始まったらどうなるのだろう?と心配もするが、それはそれ、長い年月の間には雲雀の遺伝子にも人間の周期が植え付けられていて、せかせかと安全なところへ引っ越して行くのだろう、、、。(2014年春詠)

浅春や切口白き庭の木々

二十年以上になる庭の蝋梅の木は、その昔近所で種を貰って育てたもの。毎年剪定はするのだが、木が古くなったせいかこの所花数も少なく、匂いも弱い。それで今年はよそのお宅の蝋梅をじっくりと観察してみた。その結果、どうも我家の蝋梅は太くなりすぎているようだと気づいた。きれいに咲いている蝋梅は、どこも比較的低い位置から枝を伸ばし、樹高と比べると幹が細いようだった。ということで、今年は根元から二本出ている太い幹の一本を低い位置で切ってみた。結論が出るのは数年後か、、、。(2014年春詠)