「咬みます」と札つけし猫うららけし

どういう訳か最近我家の近くに猫の姿がなく、おかげ様で今年は静かな春となっています。掲句は久米南町誕生寺の寺務所で見かけた猫です。よく太っていかにも人懐っこそうなので近寄ってみると、首に、、、。(2014年春詠)

残雪の風に晒されゐる山辺

国道429号線を走って津山から倉敷に行くと、峠を二つ越えるようになる。その一つ目の峠に「道の駅かもがわ円城」がある。津山の自宅周辺には雪が無くても、この一つ目の峠辺りのちょっとした日陰には雪が残っていることが多い。掲句は昨年の二月、里雪で県南のほうが雪が多く、峠を越えてからも何箇所もの道端の竹やぶに雪折れが見られた。人と一緒で、県南では竹も雪に慣れていないのかと思ったが、まさかそんなことは無いだろう、、、。(2014年春詠)

飛行機を音の追ひかけ冴返る

子供時代を過ごした実家は山の隙間のようなところにあって、空が近かったせいか飛行機がずいぶん低いところを飛んでいたような気がする。それに比べるとこの辺りでは高いところを、それも定期航路でもあるのだろうか、数も多く飛んでいる。映像と音だから絶対に音が早いことは無いのだが、その音の遅れ方は、風の方向と強さによってずいぶんと違う、、、。(2014年春詠)

末黒野と同じ色して二羽の鳩

焼こうとして焼いた野も不注意から焼けた野も、焼けてしまえば皆同じで、しだいの見慣れた風景になって行く。毎年この時期になるとそんな野が増えていく。まだらになった野に動いているのは二羽の鳩だった。番だろう、付かず離れず、まるで保護色のように焼けた野に溶け込んで動いていた、、、。(2013年春詠)

山頂へ車登れず山笑ふ

例によって知らない山道を走っていると、ふと見た山上に建物とパラボラアンテナが見える。なんだろう(?)行ってみるかと、ちょうど走っていたところが麓の舗装された新しい道だったこともあって、そこを目指すことにした。ナビを見てもそれらしい建物は無く、そのうち上り口があるだろうと思っていたが、一向にそれらしいところが無い。そうこうしているうちに上りだった道は下りになり、気が付けば国道まで出てしまった。まあこんなもんだろう、、、。(2013年春詠)

薄氷に粉砂糖ほど春の雪

傷んだ舗装路に出来た水溜りに氷が張っている。その上だけにうっすらと雪が、ちょうど粉砂糖をまぶしたように残っている、、、。これがもう少し寒くて雪がもう少し多いと、氷の所在が見えなくなる。こうなると危ない。無意識に載ったとたんに支点を失ってひっくり返り、後頭部を強打することになる、、、。(2013年春詠)

早春の菓子舗の前の風甘く

いかしの舎から早島公園に向かう途中に小さなお菓子屋さんがある。そのなんでもない街の、なんでもない小さなお菓子屋さんから、甘い匂いが風に乗って漂って来た。寒風の中を漂ってくるうどんの出汁の匂いもいいが、早春にはやっぱりこのほうが合っている。ということで一句。うぐいす餅かはたまたいちご大福か、、、。(2014年春詠)

地に人の梢に鳥の春の声

去年の二月の句会は早島の「いかしの舎」だった。前日に降った雪が随所の残る県南では珍しい日だった。吟行は不老の道を通り、裏から早島公園へ上った。頂上近くの広場がゲートボール場になっていてお年寄りの賑やかな声が聞こえていた。広場の周辺には大きな木が多く、こちらには鳥たちが、こちらもお年寄りの声に負けじと賑やかに鳴いていた。雪の残る景色の中だったが、どちらもまさしく春の声だと思った、、、。(2014年春詠)

犬ふぐり一つが千にたちまちに

もう芽が出ていると思っていたらいつの間にか咲いているのが犬ふぐりですね。それも気づいた時には必ず周囲に広がっています。一度でいいから誰よりも早く、最初の一つを見つけたいものです、、、。(2012年春詠)