誰も居ぬ夜の会議室室の花

さあ、そろそろ戸締りをして帰ろうかと、一人取り残された会社の廊下へ出た。ドアの開いた会議室の前を通ると佳い香りがしてきたので覗いてみると、明かりが消えた部屋の窓際に花が飾られていた。その一角が、カーテン越しに入るわずかな外光を背に、妙に近寄りがたい厳かな雰囲気を漂わせていて、覗いた瞬間に心臓が止まるほどドキッとした、、、。(2010年冬詠)

蕗の薹ひとつふたつが良かりけり

一月の終わりに道の駅に寄ると蕗の薹が売られていました。いくらなんでも早すぎると思いましたが、どこ産とも確かめないで帰ってしまいました。たぶん農家で栽培された物なのでしょうね、、、。我家の裏の土手にも少しですが出てきます。少しですからありがたく頂きます。少しでも十分に春の味がします、、、。(2010年春詠)

農小屋の燻されてゐる畦火かな

若草山、後楽園、阿蘇山ほどではないが、近所の田圃の畦焼ももうもうと上がる煙が一帯を覆い、結構見ごたえがある。早く言えば大人の火遊びのようなもので、付いている人も内心は燃えすぎないかとヒヤヒヤしているのだろうが、一見得意そうに見える。迷惑なのは田圃の中にぽつんと建っている古い農小屋で、何も言いはしないが傾きかけた屋根の形がいかにも迷惑そうに見える、、、。(2011年春詠)

三世代続く女系や梅の花

県北では梅ももう少し先になります、、、。とあるお宅の庭先にある古い梅でした。通りがかりにずいぶん楽しませていただきました。お家も立派な古い農家のつくりでしたが、建て替えられて洋風の洒落たお家になってしまいました。娘さんが結婚されて一緒に住まれるとのことでした。庭もすっかり洋風になって、あの梅の木はどこへ行ったのでしょう、、、?(2011年春詠)

浅春の並びて発車待つ電車

掲句は岡山駅の西口から線路沿いに歩いていて目にした風景ですが、大きな駅はどこでもこうなのかも知れない。津山駅は線路と並行している山沿いの道を車で走っていると、やはりこのような電車だまりが見える。駅は賑やかな表の風景もいいけれど、このような裏側の風景にも惹かれる。春の駅には別れと出会いが待っている、、、。(2013年春詠)

縦横に川使ひけり春の鴨

冬の間はくっつくでもなく離れるでもなく、浮寝鳥を決め込んでいた鴨たちですが、春の日差とともに活発に動くようになります。活動範囲も広くなるようです。川幅いっぱいに自由に泳ぎまわって、何やら遊んでいるようにも見えます。浮寝鳥の時と違って楽しそうですね、、、。集団で河川敷に上がって草を啄ばむ姿もよく目にします。新芽ばかりを啄ばむのでしょう、後には指の先ほどの鮮やかな緑色の糞がたくさん残っています、、、。(2013年春詠)

一瓶の水仙近き句座の席

なぜだか倉敷公民館の、誰でも入れる小さな談話室での句会だった。テーブルも高さが違うものが二つ、ぎりぎり人数分の椅子があった。入口側のテーブルの一番入口側の席に座ると、ちょうど目の前に花瓶に入れられた水仙があった、、、。(2011年春詠)

春雪の川に一羽の立ん坊

いやあ降った降った、昨日(2月8日)は久しぶりの大雪でした。ヘッダーの写真も昨日の物に替えてみました。春の雪は明るくて良い、なんて言えるのは降っても被害のない所だからでしょう。一年の半分が雪の中のような所で生活されている方々にすれば、何を馬鹿な事を!と叱られるでしょうね、、、。掲句の立ん坊は川鵜です。降りしきる雪の中で、吉井川の中ほどに覗いた岩の上に、たった一羽で川鵜が突っ立っていました。いかにも寒そう、と思うのは人間だけなのでしょうか、、、。(2012年春詠)

冴返る井上旧家たたき土間

倉敷美観地区にある井上旧家、今は改修中のようで閉じられている。改修されてどのように公開されるのか楽しみにしている。掲句の頃は見学できるのは玄関を入った土間だけで、そこから座敷の奥も覗くことは出来たが、物足りなさが残った。ボランティアの説明員用だろう、入口の脇に石油ストーブが燃えていたが、寒々とした土間の印象だけが残っている、、、。(2011年春詠)