作州の盆地ぐるりと遠霞

作州は山国だからどこへ行っても盆地のようなものですが、その中央に位置するのが津山盆地になります。そのまた中央の南よりぐらいが今住んでいる辺りだろうと思います。だからもちろん四方は山ですが、山までは遠く結構広いのです。その四方の山々に霞がかかっている晩春、暖かくて霞の中央に居る私の頭の中にも霞がかかっている、、、。(2014年春詠)

頬白の一筆啓上葉隠に

昨年の津山吟行での句です。頬白は歳時記によって秋に入れられたり春に入れられたり、中には春秋両方に入れられています。私は春のほうが合っていると思うのですが、なぜだろう?と常々疑問に思っていたところ、山本健吉の「ことばの歳時記」の「囀」の項に、その理由らしきことが書かれていました。長くなるので書きませんが、興味がある方は読んでみてください。山本健吉がいろいろな所に書いた文章をまとめた本です。ちなみに上記「囀」は(電信電話 昭和43年3月)と書かれています、、、。(2014年春詠)

雀来てゐる豌豆の花咲いて

久しぶりにロッカールームで仙人と一緒になった。「蛇やマムシは出ませんか?」「ああ、出る出る」「怖くないですか?」「怖いよ、怖いけど向うのほうが先に住んでいたんだからね、仕方ないよ。こちらが気をつけて歩いてる。上を見たり下を見たり、これからの季節は忙しいよ」「上?」「ああ、スズメバチ。これが一番やっかい。夏には戦争だよ!」「スズメバチとですか、あれは危ないですね。でもこれからは良い季節になりますね。気持ちいいでしょう?」「そう!最高!特に五月はね!」と急に目が輝きだした、、、。(2014年春詠)

古本を選る春陰に息ついて

ちょっと一息、最初から買おうという気はサラサラない。奉還町のアーケード街、古書店の前に置かれたワゴンに一冊百円の古本が並んでいる。文庫本には記憶にあるタイトルがいくつもある。もう一度読んでみたい気もするが、家に帰ればそう思って手に入れた古本が山になっている、、、。(2014年春詠)

駅裏のベンチにぎやか鳥の恋

岡山駅西口です。西口もずいぶん変わりました。吉備線と津山線が一番端っこのホームから出るのは今も同じのようです。出張帰りに薄暗い西口の売店でカップ酒を買って、上司と二人津山線の最終便を待ったことがありますが、今の西口、まして昼間の西口にはその時の面影はまったくありません、、、。(2014年春詠)

自転車の出れば空つぽ花あせび

散歩の途中にある道路沿いのお宅、働き盛りの両親と高校生の男の子が一人いる。まず作業服姿のお父さんが車で出て行き、続けてヘルメット姿のお母さんが勢いよくバイクで出て行った。少し間があり、玄関に鍵をかけるのは高校生の男の子、カーポートの自転車にまたがり前かごに鞄を放り込むと、そのまま何事もなかったように自然に出て行った。ぽかんと口を開けたようなカーポートが残った、、、。(2014年春詠)

蒲公英の球体欠けて行く真昼

タンポポの種が風に吹かれて球体を離れていく様子と、海の中の藻に産み付けられた卵から孵ったばかりの稚魚が藻を離れていく様子はよく似ていると思う。その様子は、まるで最後までくっついている一点を自ら振り払うような仕草をしているように見え、離れると同時に力が抜けたかのように後は風まかせ、水まかせで漂って行く。自然はうまく出来ている、、、。(2014年春詠)