本堂の法話漏れ来る暮の秋

某名刹の大きな本堂、聞きたくて聞いたわけではないけれど、外まで漏れて来る法話は一度だけ会話をした事のある小柄で細身の年老いた住職のものだろう、見かけによらず張りのある声。聞いているのは観光客か、時に笑いを誘いながらの住職の名調子は続く、、、。(2017年秋詠)

消防の操法訓練空高し

目新しい吟行地はないかと走っていて行きついた知らない町の少し山に入ったスポーツ施設、一番低いところにグラウンドがあり、それを見下ろす丘の上に体育館やテニスコート、さらにそこから山へとウォーキングコースが続いている。そのウォーキングコースに興味を持ったのだが、作っては見たけれどという良くあるパターン、草ぼうぼうで歩くのもままならない。早々に諦めて後を振り返ると、ちょうど見下ろす位置にあるグラウンドで消防の操法訓練が始まったところ。晴天の秋空の下に並んだ消防自動車、きびきびと動く人影と掛け声、草の中に腰を下ろししばらく眺めていた、、、。(2017年秋詠)

神苑の一樹まるごと鵯の声

神社という神社がヒヨドリの住み家なのではなかろうかと思うぐらい、神社に行けばどこの神社でも高木の上から賑やかな声が降って来ます。何を話しているのだか。そんなに美味しい実の生るような木は見当たらないのですがね、、、。(2017年秋詠)

鹿鳴くや表書院に上下の間

<児島・野崎邸吟行>の注釈を付けておこう。とてつもない広さのお屋敷の玄関脇にある表書院、上の間と下の間があり、庭から見える位置に鹿の絵の衝立が飾られていた。おりしも季節は秋、昔であれば本物の鹿の声が聞こえたかもしれないと思わせるほどのお屋敷だった、、、。(2017年秋詠)

休日のもぬけの庁舎虫の声

確か選挙の期日前投票に休日の市役所へ行った時の句。投票所のある一角以外はもぬけの殻で、灯を落としてガランとした庁舎には蟋蟀の声まで聞こえていた。昔仕事をしていた頃の休日出勤を想い出した。静かな中で自分のペースで仕事が出来る休日出勤が嫌いではなかった、、、。(2017年秋詠)