寒林の波音近き室戸岬

もう七年が経ってしまった。二か月を四国徳島で過ごした退職前、一日休みを取って室戸岬まで足を延ばした。海岸から最御崎寺まで遍路道を登ってみた。車にすれば良かったと何度も後悔したが、時折眼下に見える太平洋の白波と波音に励まされるようにして登った。毎年この時期になればこの四国での二か月を思い出すが、その記憶は年々薄くなって行くような気がする。良くも悪くも、最後の二か月だった、、、。(2017年冬詠)

寒靄の家並浮かべてをりにけり

簡単に言えば冬の靄、寒靄と言えば何だかしっかりしたものに思えるから不思議。低く冬田を覆い、その向こうにある家並がまるで浮いているように見える。雲海に浮かぶ天空の城と違うのは家並の後ろに背景の山があることでしょう、、、。(2017年冬詠)

虎落笛風に命のあるごとく

虎落笛なんて言葉、俳句に入っていなかったら絶対に知らなかっただろうと思います。知ってみれば、子供の頃の田舎ではずいぶん聞いたような気がします、気候も今より寒かったし、寒くても野や山に出ていましたからね、、、。(2017年冬詠)

付けし道もどして終へる川普請

掲句は昨年の冬、近くの堰の改修工事の観察記録です。まずは堰の所に重機を入れるために、土手の上から河川敷の公園を横切る道を、重機で作って行きます。それから堰の改修、もちろんその重機を使います。工事が終わればその重機で今度はその仮設の道を撤去していきます。あとは傷んだ芝生を貼り直して終わりでした。重機の無かった昔は大変だったろうと、つくづく思いました、、、。(2017年冬詠)

実南天廃屋裏の勝手口

廃屋となっている大きなお屋敷、路地を入ると道路沿いに塀が続き、奥まった所にこじんまりと門がある。と思いきや、「○○勝手口」と書かれた木札がかかっている。とすれば大きな勝手口。勝手口と建物との間には育ちすぎた南天がたわわに実をつけている。もうここから入るのは困難だろう。木枠の窓ガラスが見える。映る景色の屈折した光は明らかに古硝子だ。いったいどんな方のお屋敷だったのだろうといつも思う、、、。(2017年冬詠)

静けさに振子の刻む寒の時

我が家の掛時計はいまだに月に一度ゼンマイを巻くタイプです。大きな低い音で時を知らせます。振り子は一定のリズムで時を刻んでいきます。子供の頃もそうでした。古い大きな掛時計があり、病気がちだった私はその下に敷かれた布団の中でひたすら耐えていました。動くものと言えばその振り子だけで、いつの間にかそのリズムが頭の中にも刻まれて、今ではどこにいてもそのリズムが刻めるのです、、、。(2017年冬詠)