ひと所明るさ残し春時雨

冬の間は散歩の途中で雲行きが変わろうが、降ってくるのは雪だから全く気にならなかったが、春になるとそうは行かない。しまったと思っている間に、時雨の雲は雨の形を見せながら迫ってくる。それでもよくしたもので、濡れるほどでもなく、明るいままに通り過ぎることが多いのも春時雨。今のうちに、と犬を急かして家路を急ぐ、、、。(2013年春詠)

木蓮の芽のとがりたる空の青

会社に行く途中にあった大きな和風のお家。家の前は田圃で、農業もしながら他のこともされているような、余裕の見て取れる佇まいだった。田圃に面した庭にこの木蓮はあった。毎年きちんと手入れをされるので、毎年きれいな花をつけた。先日久しぶりにこの道を通ったら、田圃に幟旗が立って、工事が始まっていた。幟旗には某マンション経営の会社の名があった。ここにもマンションが出来るのか、マンションなんか建てられなくても、と思ったが、、、。この道を通ることもほとんど無くなり、この木蓮を見ることも無いとは思うが、隠れてしまうのは寂しい、、、。(2010年春詠)

蔵の窓いづこも小さし風光る

吟行の集合場所、早島駅近くでの句。早島は初めてと思っていたのに、駅前の景観にどうも見覚えがある。そう思って考えていたら思い出した。確かに七、八年前に一度仕事で来たことがあった。もう少し春の進んだ頃で、ひどい雨の日だった。駅前から延びる広い道路が工事中でぬかるんでいた。駅も工事用のパネルで囲われていたように思う。たいした仕事ではなかったので忘れていたが楽しい内緒の秘密めいた仕事でした、、、。(2012年春詠)

窓枠をビシと鳴らして春一番

あれっ、今年の春一番はいつだったろうと思っています。掲句はまだ働いていた頃の春一番。古い建物なので、強い風が吹くとあちこちで音がします。いきなり建物にぶつかって来た風に、事務所の窓が壊れそうな音を立てたときの句です。(2011年春詠)

犬ふぐり地に咲く星と思ひけり

犬ふぐりの咲き始めって、ちょうど夕空に星が出始めるのと同じようだと思いませんか。最初の一つは偶然見つけるのです。そして一つ見つけると次を探したくなって、次から次へと、ちょうど夕空に増えていく星を探すように、探してしまうのです、、、。(2011年春詠)

一行で繋がるネット春寒し

便利になりましたね。一行で、と言うよりもワンクリックで繋がるのですからね。反面、溢れかえる情報の取捨選択が大変です。ウイルスとか成りすましとか心配事も増えました。それと、パソコンはいつ壊れるかも知れません。必要なデータはバックアップをとるようにしましょう。もっと大事なデータは、やはりアナログに戻って、紙に残したほうが良さそうです。と、自分に対する戒めですが、これがなかなか出来ない、、、。(2011年春詠)

勝山は家の下より春の水

昨日の続きのようですが、こちらは数年前の句です。古い町並みの通りに面して沢山の雛人形が飾られる行事があります。古い雛飾が見たくて行ったこの日も、時折霙が降ってくる寒い日でした。その賑やかな通りの外れのほうに、こんなところがあります。結構幅広のきれいな用水が、家のしたをくぐってとうとうと流れているのです。早春らしい風景でした、、、。(2010年春詠)

春雪のどこか明るさ持て降れり

勝山に「タルマーリー」というパン屋さんがあります。先入観なしで行きましたが、最近ちょっと有名なパン屋さんらしいです。御前酒の辻本店さんなどがある通りに面した古民家を改造した小さなお店で、看板がないと古い空店舗といった佇まい。古い商家の土間のあたりが小さなお店、その後にパン工房、奥の住居部分の畳みの小部屋と台所の部分に設えたカウンターが小さなイートイン・カフェとになっています。その薄暗いそのカウンターでコーヒーを飲みながら、木枠のガラス窓越しに雪の降る裏庭を眺めるのは、まるで昭和に戻ったような懐かしさでした。ちょうどパンが焼かれている時間帯で、コーヒーを飲んでいる間に三回ほどブレーカーが落ちて停電になったのも一昔前のようでご愛嬌、、、。パンも美味しかったですよ、、、。(2013年春詠)

鯉はねて後は音なき池の春

池の近くを歩いていると、突然大きな水音がした。驚いて音のした方を振り向くと、跳躍した大きな鯉がちょうど水に沈もうとしているところだった。後には何重にも水輪が広がり、それが収まると何事もなかったように静寂だけが残った。それっきり鯉は跳ねなかった、、、。「古池や蛙飛びこむ水の音」よりも音は大きかったと思う、、、。(2011年春詠)