住み旧りし空広き地の鰯雲

私の育ったところは両側に山が迫ったⅤ字型の谷底のような所でした。だから空も狭く、鰯雲は山から山にかかり空一面を覆ってしまいます。それに比べると今住んでいる所は空が広い。高い建物もなく、空がずいぶん遠くまで見えます。だから鰯雲も空一面を覆うなんてことは無く、のんびりと流れて行くように見えます。鰯雲を見る度に空の広さを想い、この地で過ごした年月を想い、そして想いはいつの間にか故郷へと移って行くのです。故郷で過ごした年月は、今ではこの地で過ごした年月の何分の一かに過ぎないのですが、、、。(2017年秋詠)

鰯雲検診車より吐出され

会社の健康診断はレントゲンと心電図の検診車、それに社内の空き部屋を使っての各種検査、最後に医師の簡単な問診と指導がある。医師は極端に若いか、現役を退いたようなお年寄りが多かった。何年も続けて同じ女性の老医師が来られたことがある。この方は、ご自分の人生経験を踏まえた、親切な若者を諭すような話し方で、好感が持てた。ある年特に相談したい事も無いので「先生、失礼ですけどお歳は?」と聞いたら「あなたねえ、レディーに歳を訊くものじゃあないわよ。八十を越えましたよ」と、笑いながらやさしく話された、、、。(1999年秋詠)

出来立ての鰯雲ある今朝の窓

夕景の空を覆い尽す鰯雲も良いが、爽やかに目覚めた朝の窓に見つけた出来立てのような小じんまりとした鰯雲もまた良い、、、。県北はこれから次第に霧の朝が増えてくる。霧の朝にはもちろん鰯雲は無い。朝の日差もまた貴重になってくる、、、。(2011年秋詠)

いわし雲空一枚を画布として

鯖雲と鰯雲と鱗雲、どう違うのだろう?とネットで検索してみると、写真付きですぐに出てきます。なんと便利な世の中になったことでしょう。ということで、興味のある方は検索してみてください、、、。何度も何度も書いてしまいますが、私の育った両側を山に挟まれた故郷では、空も狭いので、空全体が鰯雲に覆われてしまうことがあります。圧倒されます。見上げていると、自分まで地球という船に乗って動いているような不思議な感覚になってきます、、、。(2012年秋詠)

一村を覆ひて余るいわし雲

散歩に出て吉井川の土手への坂道を少し登ると、ちょうど空を眺めるのに良い場所へ出る。秋には見える限りの空を覆うような鰯雲に出会うことがある。吉井川を越え、となり村も越え、次第に小さくなって西の彼方へ消えて行く。西の彼方には我が故郷があると思うと、感傷的な気分にもなる。(2008年秋詠)