春昼のたつぷりと水使ふ音

近所から聞こえてきた音。蛇口から勢いよくバケツの底を打ち、その勢いのままに音の高さが低く変化し、溢れる寸前のところで蛇口がしまる。ほんの少し間が空き、その水を勢いよく丸ごと何かにかけるような音。少し間が空きバケツを置く音、また蛇口から勢いよく水が、、、。と、それが何度も繰り返される。まったく声は聞こえない。わざわざ見にも行けないのだが、その水の使いっぷりが何とも気持ち良く聞こえてくるのだった、、、。(2013年春詠)

末黒野と同じ色して二羽の鳩

焼こうとして焼いた野も不注意から焼けた野も、焼けてしまえば皆同じで、しだいの見慣れた風景になって行く。毎年この時期になるとそんな野が増えていく。まだらになった野に動いているのは二羽の鳩だった。番だろう、付かず離れず、まるで保護色のように焼けた野に溶け込んで動いていた、、、。(2013年春詠)

山頂へ車登れず山笑ふ

例によって知らない山道を走っていると、ふと見た山上に建物とパラボラアンテナが見える。なんだろう(?)行ってみるかと、ちょうど走っていたところが麓の舗装された新しい道だったこともあって、そこを目指すことにした。ナビを見てもそれらしい建物は無く、そのうち上り口があるだろうと思っていたが、一向にそれらしいところが無い。そうこうしているうちに上りだった道は下りになり、気が付けば国道まで出てしまった。まあこんなもんだろう、、、。(2013年春詠)

薄氷に粉砂糖ほど春の雪

傷んだ舗装路に出来た水溜りに氷が張っている。その上だけにうっすらと雪が、ちょうど粉砂糖をまぶしたように残っている、、、。これがもう少し寒くて雪がもう少し多いと、氷の所在が見えなくなる。こうなると危ない。無意識に載ったとたんに支点を失ってひっくり返り、後頭部を強打することになる、、、。(2013年春詠)

待春や声の元気な郵便夫

私が子供の頃の郵便配達は自転車でした。朝から配り始めて、一日かけて山奥の行き止まりの家まで配るのですが、私の家に来るのがちょうどお昼頃でした。だから郵便屋さんはいつも私の家でお弁当を食べていました。お弁当を食べて一服して、家の大人たちと世間話をして、それからまた出発して行くのでした。それは配達が自転車から赤いバイクに変わるまで続きました、、、。掲句、久しぶりに「郵便です!」の元気な声を聞いた時の句、もちろん「ご苦労様!」も元気に返しましたよ、、、。(2013年冬詠)

雪晴や天の明るさ地が返し

雪晴の日は空と地上の両方から光が来て、まぶしさが二倍になります。今は昔、子供が小さかった頃には、年に何度かスキーに連れて行きました。と言っても自分のほうは滑らない(滑れない)ので、雪原に腰を据えて雪晴を楽しみながら缶ビールを飲んで時間をつぶしていました。子供が滑るのに飽きた頃にはちょうど酔いも醒めて、さあ帰ろうと腰を上げるのですが、今では考えられないことですね、、、。(2013年冬詠)