山国の空深曇りえごの花

歳時記を見ると「果皮には麻酔効果があり、搾汁を川に流して魚をとるのにつかわれた」と書いてある。そう言えば昔、今は亡き近所の悪ガキの下で遊んでいた頃、魚が取れると言うその悪ガキが仕入れて来た半端な知識での指導のもとに、我々子分はまだ青い木の実をせっせと石で叩いて潰した記憶がある。だが、小さいながらも魚影の濃い川だったが、流す量が少なかったのか、やり方が悪かったのか、結局一匹も取れなかった。そして、悪ガキからその漁の提案が出てくることは二度となかった。ああ、あれがエゴノキだったのかと知ったのは、俳句を始めてずいぶん経ってからだった、、、。(2016年夏詠)

跳ぶやうに土手を行く人夏来る

気候が良くなると散歩する人が増えてくる。ウォーキングする人も。散歩との違いは服装と、それに足取り。まっすぐ前を向いて、大きく腕を振って、遠くから見るとまるで跳ぶような感じ、、、。でも、なかなか続かない。暑くなるとすぐ姿を見かけなくなる。そしてまた、季節がよくなると現れる。大きなマスクで顔は見えないが、たぶん同じ人、、、。(2016年夏詠)

毛虫這ふ見てをり話聞いてをり

もう一句、毛虫の句です。早く終わらないかなあと思いながら聞いている散歩途中の立ち話。ふと足元を見ると大きな毛虫、せっせと道を渡っていく。おいおいそっちに行くと大きな足で踏まれるぞ。そうそう、まだ気づいていないぞ、そこで曲がれ。と、話に相槌を打ちながら、、、。(2016年夏詠)

行く春の指先欠けし阿弥陀仏

とある寺の、薄暗いお堂の中の阿弥陀仏、よく見ると上げた右手の木製の人差し指の先が小さく欠けている。お寺も、お堂も、仏様も古い。空家の目立つ村の寺では、なかなか修復ともいかないのだろう。お顔のやさしさが心にしみる、、、。(2016年春詠)

開け放つ扉五月の風に向け

もう一句、五月です。ほどよい風の日には、です。昨日は風も強く、なんだか不安定な天気でした。上空に寒気が入り込み、暖まった地上との温度差が40度を超えると、雷やら雨やら、不安定な天気になる確率が上がるのだそうです。最近の天気予報は詳しいですね、、、。(2016年春詠)