金風の納豆工場豆煮る香

退職する何年か前から、屋外に出ると風に乗って時々大豆を煮る匂いがするようになった。てっきりどこかに食堂でも出来て、と思っていたら、じつはそれが同じ工業団地内に出来た納豆工場の大豆を煮る匂いだと知ったのはずいぶん後だった。どうりで、食堂なら豆ばかり煮ることはないかと、一人納得、、、。(2013年秋詠)

きちきちを次々たたせ野の車

河川敷には一応道はあるが、草が生い茂り、車で走るにはちょっと難儀で、大きくゆれながらゆっくりと進んでくる。これは堪らんとその車の前から次々にバッタが飛び立つ。降りては迫り来る車にまた飛び立つ。と、これを繰り返して車は通り過ぎて行った。それにしてもずいぶんたくさんのバッタが生息しているものだと、その光景に感心した、、、。(2013年秋詠)

蔓引いてごろりと南瓜現るる

今年も裏の土手に南瓜の苗を一本植えた。順調に五つ収穫して、食べたり人にあげたりしたが、さすがに南瓜ばかり食べる訳にもいかず、以後ほったらかしにしている。周囲の草も大きくなったし、そろそろ蔓を処分する頃だろう。となると、去年の掲句と同じ状況、いや去年以上になるのではないかと、捕らぬ狸の皮算用、、、。(2013年秋詠)

秋天に親子庭師の鋏鳴る

近所に親子で庭師をされている家がある。親父さんは私より少し年上で、かつてはサラリーマン、中年になって庭師に転職された。奥さんは私の勤めていた会社の先輩で、入社当時からお世話になったが、今は社長婦人と言ったところ(未だに私は「あんた」と呼ばれる)。息子さんは私がここに住みだした頃は確か高校生だった。私の自宅の庭は自分で手入れをするので未だかつて頼んだことがないが、この近所でもよく親子で仕事をされているのを見かける。それぞれが高い脚立の上で、微妙なリズムで響かせている二つの鋏の音が、心地よい、、、。(2013年秋詠)

老釣師もどり来る手にさくら蓼

久しぶりに遭遇した老釣師、「今日は鮎を掛けよう思うて、」「へえー、落鮎ですか?」「いやあ、まだ色が変わっとらんから落鮎じゃあねえが、子を持ってよう太っとるんで、掛かればじゃけどなあハハハ、」と笑いながら準備をしていた、、、。遇うことが少なくなって、歳を取られたのかと心配していたが、これならまだまだ大丈夫。掲句は昨年の老釣師、、、。(2013年秋詠)

紙器工場夜業の窓にラジオ鳴る

これも初期の句です。見るもの聞くもの何でも新鮮で句になっていた、、、。秋になると少し遅れると日暮れて帰ることになる。通勤途中にある紙器工場はその時間帯にはいつも明かりが点いていた。開け放った表戸のすぐ奥で古びたプレス機が動き、窓辺ではラジオが大きな音をたてていた。人影を見ることはほとんど無かったが、たまに見るのはいつも同じ中年の男性だったから、一人だけの工場だったのかも知れない、、、。(1998年秋詠)

これ見よと茸通路の真ん中に

備中国分寺の南側の駐車場から五重塔へ行く最後の上り坂の通路の真ん中に生えていた茸です。ちょうど坂の途中で目に付くところだからでしょう、通路の真ん中にもかかわらず踏まれずに立派に傘を開いた茸でした。食用?なら良いのですが、、、。(2011年秋詠)

モノレール千里の秋へ滑り出す

初期の作品です。中国道を走っての大阪出張、吹田近くになると見られる大阪モノレールの風景です。そう、千里は大阪の千里です。伊丹発着の飛行機が見えて、モノレールが見えて、万博公園の太陽の塔が見えると吹田出口、「やれやれやっと大阪」と思ったものですが、今となれば出張も懐かしい、、、。(1998年秋詠)