私の生家近くの川は谷川に毛の生えた程度の細い川だった。だから通常の水量は高が知れていたが、ちょっと大雨が降ると川幅いっぱいの水量となった。それでも溢れる事は無く、子供心には水が引いた後に変わって見える川の様相が楽しみだった。今の住居は吉井川の近くで、さすがにそういう不謹慎な事を考えるより不安のほうが先にやってくる。それでも難なく時が過ぎれば、やはり大きな川幅を満たして流れる水には魅力がある、、、。(2012年夏詠)
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地に低く猫の目のぞく木下闇
下津井、祇園神社での句。港町らしく神社の境内には猫が多かった。境内の外れの茂みの暗がりの中からも黒猫の緑の眸が二つ、、、。(2011年夏詠)
やぶ蚊出るはなぐり塚の石祠
吉備津神社近くのはなぐり塚での句、、、。近年蚊に嫌われているのか、あまり刺されることがありませんでした。それが今年は、なぜか早くから蚊に刺されるのです。蚊が多いのか、それとも油断しすぎなのだろうかと、腕の裏側を掻きながら考えているところです、、、。(2008年夏詠)
ほの見ゆる螺旋階段黴の宿
入社して五六年の頃だったろうか、福島県のとある工場に仕事をお願いして、その指導で一ヶ月ぐらい飯坂温泉に滞在したことがある。朝から温泉に入り、迎えの車で出勤、夜は温泉街を散策した。もっとも入社五六年の出張手当では、散策ぐらいが関の山だったのだが、、、。掲句は昨年、近くの寂れた温泉の、もう営業していない(?)ホテルの景、、、。(2013年夏詠)
選ばれて若竹となる五六本
手入れを怠れば竹藪、手入れをすれば竹林と言ったところでしょうか。手入れをされた竹林はきれいなものです。筍を採るためには適度な間隔が必要なのでしょう、間引かれて、選ばれた筍だけが空に伸びている、、、。(2013年夏詠)
夏蝶の雨宿りする厨口
蝶のほうは見つかって迷惑でしょうが、雨の日はこんな事も楽しいですね、、、。(2000年夏詠)
居残りて開く句帖や背に西日
久しぶりに元勤務先を訪ねたら、昔から消防設備の点検をお願いしていた会社のNさんに出くわした。ちょうど点検の日だったようで、作業服の腰には重そうに工具がぶら下がっていた。こちらはTシャツにGパン、向うのほうが先に気づいたようだった。「お久しぶりです」「やあ、元気そうですね」「どうされて?」「辞めました」「えっ?」「ちょうど定年だったんですよ」「それじゃあ今は?」「無職です、何か仕事があったらお願いしますよ」「いやいや、私だって延長で働いている身で」「そうですか、でも仕事があるうちが花ですよ、がんばってください」「はい、ありがとうございます」向うに見慣れた運送会社のトラックが止まっている。降りてきた運転手は、髪は白くなっているが、これも日々なだめたりすかしたりしながら、無理をお願いしていたOさんだった、、、。(2010年夏詠)
たくましき女の素足立ち止まる
ミニスカートが流行り出したのと私が就職したのが同じ頃だった思う。会社も工場も若かったから働いている女性も若かった。だから競うようにミニスカート姿で、健康的な逞しい足を見せていた。その足は明らかに今の若い女性の足とは違う足だったような気がする、、、。掲句は西川緑道公園で久しぶりに見た昔タイプの足、見事さに見とれていたら突然立ち止まって振り向いた。やましい心はないのだが、ちょっとドギマギしてしまった、、、。(2013年夏詠)
クロールの顔上ぐる度夏の雲
昔の田舎の小学校にはプールなんてものは無く、泳ぐのは川に限られていた。だから水泳が許可されるのは、梅雨が明けて水温が上がって来る、ほとんど夏休みに近い頃だった。我慢できずに泳ごうものなら、なぜだか必ず学校に知られて、こっぴどく叱られたものだった。今は六月になると水泳の授業が始まるからだろう、私が通っている市民プールにも、休日には急に子どもの数が増えてくる。おかげでこちらは泳ぐのもままならない状態になって来る。それに比べると、平日のプールのなんと穏やかなこと、中央のコースを独り占めにしてゆったりと泳いでいると、ちょうど顔を上げた目線の先に育ち始めた峰雲が見えるのである、、、。(2013年夏詠)
清水汲むペットボトルを曇らせて
山道を走っていると清水の湧き出しているところがある。傍に小さな祠があり、水神様が祀ってある。これなら飲んでも大丈夫だろうと、手に受けて口に運ぶ。冷たい、美味い、一度に暑さが引いていく。せっかくだからと、車から空いたペットボトルを出してくる。小さな口からチョロチョロ入れると、入れたぶんだけペットボトルの周囲が曇ってくる、、、。(2012年夏詠)