冬ざれや帽子褪せたる石地蔵

続いて本山寺。昨日の道に入る手前から石段を登ると、比較敵新しい観音像があります。その後に小さな石地蔵が何体かありますが、こちらは表情もはっきりとは見えないような古い石地蔵です。何年ぐらい経つのでしょうか、赤い毛糸の帽子もすでに色褪せて、苔が生えたりしています。(2011年冬詠)

走り根にすがりて冬の羊歯青し

これも本山寺での句。三重塔を過ぎて左の道を行くと、裏手の駐車場に出ます。その間の短い距離ですが、山を削って作った道の山側の斜面には、大きな走り根が何本ものぞいています。そして、それに縋るように生えた羊歯が、冬なお青い葉を見せています、、、。今年は歩き易いように、新しい砂利が入れてありました。(2011年冬詠)

山寺の閉ざし寒禽鳴くばかり

美咲町の本山寺での句。本山寺は私の好きな寺で、時々行きます。最初に行ったのは二十年ほど前になりますが、まだ道路も整備されておらず、田圃の間の道や細い山道を通って、山門の下に着きました。今は道路も整備され、山門の下に広い駐車場がありますが、当時は草ぼうぼうでした。三重塔のある一角は当時もきれいに整備されており、全く知識がなく訪れたものですから、異次元の世界に出会ったように驚き、塔を見上げた記憶があります。いつ行っても人は少ないですが、冬は特に少なく、鳥の声ばかりが聞こえます。(2011年冬詠)

傘の雪ガード下まで来て落とす

雪の日は徒歩通勤と決めていました。会社までは20分ぐらいかかったでしょうか。会社のすぐ手前に高速道路のガードがありました。いつもの路地を抜けて国道を渡り、このガード下まで来て傘の雪を落すのです。雪にもよりますが、20分も歩くと傘には重いぐらいの雪が積ることがありました。それをバッサリ落すのも小さな楽しみでした、、、。(2002年冬詠)

七草やB定食に回鍋肉

「看板に”うどん”と書いてあるのに中華料理の店、ウエイトレスも中国人で、日本語があやふや、B定食を頼んだらA定食が出てくる。」というので、昼食を食べに行ってみました。確かに”うどん”の看板があり、出てきたウエイトレスは片言の日本語、迷わず「B定食」を頼むと、出てきたのは入口に出ていたサンプルの”B定食”でした。あれっ、別におかしくはないね、、、。ボリュームはあるし、味もそこそこ、結局気に入って四国にいる間は週に何回も通うことになりました。昼食時はいつもほぼ満席でしたが、夜に行くとほとんど客はなく、短髪の若い料理人が作務衣姿で賄いの夕食をとっていたりしました。これなら”うどん屋”でもいいか、と思いましたが、彼もしゃべるのは片言の日本語でした、、、。<阿南6>(2012年新年詠)

冬の道いつもどこかが濡れてゐし

県北の冬はこういう感じなのです。雪でも降ろうものなら、当分は残っているし、時雨であったり、霙であったり、乾かないうちに次が降ってくるのです。そして道は、いつもどこかが濡れているのです、、、。(2009年冬詠)

寒釣師映る姿も動かざり

昨年の暮から毎日、同じ場所で鯉釣をしている老人がいる。よく知っている人なので、挨拶をして釣果を聞いてみたいと思いつつ、人を寄せ付けない、水面の一点を見つめているその姿に圧倒されて、黙って静かに通り過ぎてしまう、、、。(2010年冬詠)

猪罠を閉めて迎ふる御慶かな

「知り合いの猟師に頼まれた」とかで、父が場所を貸し実家からほど近い所に猪罠が出来たのが前年のことです。猪が入ると猟師が来て処分し、場所代として肉を置いて行く、という段取りでしたが、ずい分入ったのでしょう、当時は帰省する度に猪肉を持たされました、、、。子どもの頃にも猪罠を見たことがありますが、その猪罠は、山の中の広場に太い丸太で砦のような囲を作った、何となく時代劇の一場面を見るような、子ども心をくすぐる代物でした。それに比べると現在の猪罠は、動物園の猛獣の檻のような、鉄製で冷たい無機質なものです、、、。掲句は正月で帰省し、気になって聞いた時の句、いくらなんでも正月から殺生はないよね、、、。(2001年新年詠)

縁起物ほどの御降ありにけり

愛犬もみじの楽しみと言えば食べることと散歩。どちらが大切かと言うと食べることで、食事の前に散歩に出ると、早々に切り上げて帰ろうとする。食事の後に出ると、小一時間かけて、隣の隣の町内ぐらいまでは行く。食事は決まった時間にしか貰えないが、散歩はうまくすれば連れて行ってもらえるからと、私が家にいる間はたえず狙っている。私が二ヶ月間四国に行っていた間はどうしていたかと聞くと、知らん顔して寝ていたというから、、、。さて初詣から帰って、二度目の散歩に出ようとしたらパラパラと御降があった。一応傘を持って出たが、傘を差すほどでもなく御降は終った。御降は豊穣の前兆と言うから、まあこれも縁起物で、多少はあった方が良いのだろう、、、。(2012年新年詠)