雨後の空の明るさ青胡桃

河原に生えている胡桃の木は鬼胡桃という種類で、食用にする栽培種とは大きさも硬さも違います。小さくて硬くて、割っても食べるところは殆どありません。この時期の胡桃はその外側に青い皮が付いていて、ちょうどゴルフボールぐらいの大きさです。その実が房状に下がって生っています。青胡桃はよく見かけるのですが、秋になり、色が変り始めるといつの間にか無くなってしまいます。テレビのCMではないですが、利口な鴉が持っていくのかも知れません。(2001年夏詠)

塀越しに渡す回覧額の花

私の家はちょっと外れていますが、町内の多くの家は旧出雲街道沿いにあります。車がすれ違えないような道ですが、昔はこの道をボンネットバスが走っていたと言うので驚きです。そうしてみると、ボンネットバスってちいさかったんだと、子どもの頃に乗ったバスを思い出したりしてみます。ちょっと外れた私の家から回覧板を回すには自転車を使います。キキキーッとブレーキの音をさせると、Rさんの奥さんが塀の向うに顔を出す。「回覧」と言う前に「ご苦労さん」の声。自転車に跨ったまま回覧板を渡します。梅雨の晴間の額の花がきれいです。(2001年夏詠)

庭先に空の苗箱紫蘭咲く

通勤途上のお宅、家の横を水量豊かな門川が流れ、柿の木の下に紫蘭が咲いている。庭先には洗ったばかりの黒い苗箱が積み上げられ、滴る水滴が朝日に光っている。家を離れてからはそれこそ年に数回帰るだけで、ましてや田植に帰った記憶はほとんどない。こういう風景を眼にする度に、また今年も時機を逸したと親不孝を後悔するのだったが、今となってはそれさえも叶わない。(2001年夏詠)

村中を見渡す墓地や朴の花

当時は毎週のように大阪の本社へ出張していた。中国自動車道を走ると四季折々の花が見えるが、朴の花もその一つである。多くはないが、何年も通っているうちに木の場所を覚え、花咲く季節になるとすらりと伸びた木の緑の中に、ぽつんと見える白い花を見つけるのが楽しみだった。(2001年夏詠)

矢車の音降る下に犬眠る

これは我家から国道を渡ったところにあるお宅。道路脇に農機具小屋があり、その隅に小さな犬小屋が置かれていた。黒白のぶちの犬が飼われており、通勤の途上ではよく吼えられたが、たまたま昼間に通ると、暑さのせいか犬は眠りこけており、家の前に立てられた柱の上からは矢車の小気味よい音が降ってきた。すでに端午の節句は過ぎ、鯉幟の姿はなかった。(2001年夏詠)

薬師寺の塔の頂鳥交る

妻のお供のバスツアーで奈良に遊んだ時の句。梅が盛りを過ぎた頃だったが寒かった記憶がある。薬師寺の東塔の上から二羽の雀が賑やかに、縺れるようにして落ちてきた。下まで落ちるのかと思うと何層目かでするりと反転し、また上のほうへ飛んで行った。(2001年春詠)