一角の秘密基地めき葛の花

葛の繁殖力には恐ろしいものがありますね。大きな木もいつの間にか自分の物にしてしまう。木から木へ移り、下にぽっかり空間が出来ている。秘密基地にちょうどいいなと思ってしまった、、、。男の子に秘密基地は付き物だった。こういう自然に出来た空間はもちろんだが、自分たちで穴を掘って秘密基地を作ったことがあった。数人がかろうじて入れる穴の中に、てんでに家から盗んできた食料を持ち込み、これまた仏壇から持ってきた蝋燭を灯して遊んだものだが、大人に気付かれると次の日には基地は消滅した。今思えばずいぶん危険な遊びだったが、面白さはTVゲームの比ではない、、、。(2010年秋詠)

白よりも白き峰雲立ちにけり

本当の白さとはどんな色だろうと思うとき、夕日を受けて立ち上がる峰雲の白さが浮かぶ。白い雲の上にさらに白い雲が重なり、究極の白に近づいているように見える。では、雪の白さと比べてどうなんだろう、と考えてみるが、残念ながら峰雲と雪を並べて見た事が無い。雪の残る夏山に登れば見えるだろうか、、、。(2010年夏詠)

農小屋の眠れるごとし大青田

農小屋の中には出番の終った農機具や、資材などが入っているのだろう、広い青田の中にぽつんと立っている。錆びたトタン板の、継ぎ接ぎだらけの小屋は、決して立派とは言えないが、経てきた年月の風格が漂っている。真昼の風にさわさわと音を立てる青田をよそに、まるで眠っているようにさえ見える、、、。(2010年夏詠)

青梅雨や瓦積みおく堂裏手

後半に入り、いよいよ青梅雨らしい日々が続いています。句会へ行く途中、句が揃わず藁をも掴む思いで寄道した誕生寺、覗いた小さなお堂の裏側の景。補修用か、建てたときの残りか、浅い廂の下に積み置かれた、すでに苔むした瓦が雨に濡れていた、、、。(2010年夏詠)

一両の電車植田に映り行く

長法寺からさらに数十メートル登ったところに多宝塔があり、広く市街から郊外の田園地帯までが見渡せる。住宅地も増えてはいるが、まだまだ水田も多く、その間を津山線の単線の線路が岡山へと延びている。ちょうどこの時季には、田植が終ったばかりの田んぼに、走って行く電車が空と一緒に映って見える。たいていが一両か二両で、スピードの遅い電車は、なんとものんびりした風景を見せてくれる、、、。(2010年夏詠)