網戸の張替えも小道具を揃えると意外と簡単で、楽しくすいすいと出来てしまう。網戸と言えども、張ったばかりの透けたようで透けてない色には張がある。う~ん、なかなかの出来ではないかと、しばし自己満足に浸る。さて、と一声次の一枚に取り掛かり、ふと振り返ると先ほどの網戸で猫が伸びをしている、、、。(2010年夏詠)
カテゴリー: 2010
こわごわと渡る線路や姫女菀
無人駅の表側には寂しいが古い町並が続いている。裏側を見ると、線路際には夏草が茂っているが、その向うは新興の住宅地らしく、形も色もさまざまな家が賑やかに並んでいる。目的の寺にはその住宅地を抜けて行くとすぐなのだが、さて、道が見当たらない。これだけ家があるのだから通勤客もあるだろう。どこかに道が、とよくよく見ると、ちょうどプラットフォームの外れの向うあたりにフェンスの切れ目があり、明らかに日々人が通っている形跡があった、、、。(2010年夏詠)
身体より影の濃かりし目高の子
川を泳ぐ魚の小さな子どもが目高だと思っていた。鮒も鮠も見分けがつくようになるまでは目高なんだと思っていた。目高が目高という種類の魚で、さらに目高にも何種類もあるなんてことを知ったのは大人になってからだった。それはさて置き、水路を泳ぐ目高の子を見ると、身体は、これも保護色なのだろう、水に近い色をしているが、日を受けて出来た水路の底の影は一人前に黒かった、、、。(2010年夏詠)
遠景に一両電車朝桜
吉井川の土手が散歩コースです。その散歩コースから田圃、さらに家並を越えて、姫新線の線路があります。家並が途切れた数十メートルの区間だけで走る列車が見えます。一両の時はコトコトコトコトといった感じで過ぎて行きます。見て楽しいのは長い列車、特別仕立てのきれいな長い列車が、これでもか、これでもかといった感じで過ぎていくのは見ごたえがあります。最近は美作建国1300年とかで、時々ナルト列車なるものも走っています、、、。(2010年春詠)
小川にて終わるダム湖や桃の花
国道429号線を知ってからは、倉敷、総社方面へはほとんどこの道を通る。唯一狭いのが旭川ダム沿いの個所、片側がダム湖の曲がりくねった細い道。ここを抜けると、ダム湖へ注ぐ川沿いの広い道へ出る。川の水量はシーズンによるが、少ない時はダム湖同様ほとんど干上がっている。当たり前のことだが、ダムの終点は小川だった、、、。(2010年春詠)
雨一夜水の形に花の屑
桜は毎朝散歩に行く土手の、舗装された道の両側に植えられています。ここへ引越してきたときには、まだ背丈にも満たない木でしたが、三十年近く経ち見事な桜並木になりました。多くはありませんが、毎年見に来られる方もあります。植えられたのは老人クラブの方々と聞いていますので、そのほとんどの方がすでに他界されたと思いますが、そのうち何人の方がこの立派に咲いた桜を見られたのでしょう、、、。近くに車を止めベビーカーを降ろす若い夫婦連れを見ながら、ふとそんなことを考えていました。(2010年春詠)
花万朶空に日陰のなかりけり
満開の桜があり、雲一つ無い空がある。他に何が必要だろうか、、、。津山吟行での句会場にと思っていた作州城東屋敷の座敷が借りられることになり、市役所まで手続きに行った。担当の部署は市庁舎の五階にあった。来意を告げると、一番奥の席で窓を背に電話されていた方が出て来られた。簡単な書類を書き「すぐに許可証を発行しますから」と言われるので、待つことにした。手持ち無沙汰で、ぐるりと見渡すと、南側の広い窓の正面に鶴山公園が見えた。この位置から見る鶴山は初めてだった。まさに満開を迎えようとする山は、全体が桜色に染まって見えた。きれいだった、、、。ほどなく許可証は出来た。「ここはいいですね、鶴山が正面に見えて。初めてです」と言うと、「ええ、いいでしょう、五階だけなんですよ。こちらからは衆楽も見えるんです」と席のあった後側の窓を示された。市庁舎のすぐ下が衆楽園だった、、、。昨日下見に行った城東屋敷で、管理人の女性二人が「担当はMさんです」「あの人、ちょっと偉くなったんだったね」と話していたことを思い出して、すこしだけ可笑しかった、、、。(2010年春詠)
定年などどふでもいいや花の昼
定年まで二年を切って、事務上の煩わしい話が出てきた頃の句です。しかし再雇用の話もありましたし、内心では定年で退職出来るとは思っていませんでした、、、。それがひょんな事から自由の身になり、すでに一年と二ヶ月を過ごしてしまいました。これで良いのやら悪いのやらわかりませんが、経済的な面を除けばまんざらでもない、、、。(2010年春詠)
ものの芽や鳥さかさまにぶら下がり
何の木だったかなあ。逆様にぶら下がって器用に木の芽を啄ばんでいた鳥だけが印象に残っている。(2010年春詠)
木蓮の芽のとがりたる空の青
会社に行く途中にあった大きな和風のお家。家の前は田圃で、農業もしながら他のこともされているような、余裕の見て取れる佇まいだった。田圃に面した庭にこの木蓮はあった。毎年きちんと手入れをされるので、毎年きれいな花をつけた。先日久しぶりにこの道を通ったら、田圃に幟旗が立って、工事が始まっていた。幟旗には某マンション経営の会社の名があった。ここにもマンションが出来るのか、マンションなんか建てられなくても、と思ったが、、、。この道を通ることもほとんど無くなり、この木蓮を見ることも無いとは思うが、隠れてしまうのは寂しい、、、。(2010年春詠)