衣被食はすと言はれそれつきり

町内の役員をしていた頃、年に二回ほど役員会と称して一杯飲む会が開かれていた。少人数で、酒もつまみも年寄の町内会長が自ら手配してくれ、一番下っ端の私はごちそうになるだけと言う有難い会だった。会長にしてみれば、我々役員を手なずけておこうという魂胆だったのかも知れない。ある年の春先、コンビニのおでんで一杯飲んでいた時に、会長から「この次には芋が採れるからそれで一杯やろうや、うちの芋は美味しいで」と声がかかった。本来が食いしん坊なので、こういう言葉は忘れない。楽しみにしていたら、それより前に会長は身体を壊し、それが元で亡くなられてしまった。翌年には私も役員を引退し、芋で一杯の夢は結局まぼろしとなってしまったのである、、、。(2016年秋詠)

新涼や羽あるものは空翔り

朝日が出ると途端に暑くなってしまいます。新涼と言えるのはまだその前のわずかな時間ですね。出来立てのまだ完成していないような鱗雲やすじ雲が見えます。その空高くをいろいろな鳥が飛んでいきます。気持ち良いでしょうね、、、。(2016年秋詠)

出くはせし猫身構へる花野かな

また新顔の猫が来だした。各種の猫が混じっているようで、しっぽがやたらと長くて太い。顔はあらいぐまのよう。どう見ても美形とは言えない。餌につられて、少しずつ慣れてきて、最近はニャーと鳴くぐらいまでになった。やっぱり猫には違いなかった、、、。(2000年秋詠)

言訳に友の名を借り秋暑し

某施設の広い駐車場、普段は空いているのを良いことに無断で使わせて貰っています。それでも年に何度かは警備員さんに止められます。「今日はどちらへ?」と聞かれるので間髪を入れず「〇〇で友人と待ち合わせです。」と平気な顔をして言います。たいていはそれで通してもらえるのですが冷や汗ものです。いつまでも同じ言訳も出来ず、、、。(2016年秋詠)

鬼やんましつぽで風をあやつりぬ

やんまでも大きいほう、低空飛行でまるで戦闘機かなにかのように立派。少なくなったものの一つ。と思っていたら昨日我が家の庭にやって来た。網戸の外にホバリングして部屋の中を覗いていた。何度かそのようにして、大して面白くなかったのだろう、向きを変えて飛んで行った、、、。(2016年秋詠)