春雪の夜の半月濡れてゐし

ついでにもう一人。私と同じぐらいの年輩らしいご婦人。手術をして杖が無いと歩けなくなったと言われながらいつも明るい方です。一日の半分ぐらいが霧に覆われる津山の冬が陰気で嫌いだと言われる。それは確かにその通りなので、聞くと鳥取の出身らしい。私は冬の日本海に陰気な印象を持っていたのですが、鳥取の冬は霧が出ても海からの風ですぐに晴れて、こんなに陰気じゃあないのだそうだ。今は慣れたし、歳を取って朝起きるのも遅いから良いけど、お嫁に来た若い頃はホントに嫌だったと、これも明るくおっしゃった、、、。(2014年春詠)

自転車のいつもの帽子風光る

昨日書いた東北訛りの方、プールへはいつも奥様と一緒で仲が良さそう。ジャグジーにそのご夫婦と、同年輩のご婦人一人、それに私の四人で浸かっていた時のこと、「わし、ちょっと汗をかきに行くワ」とご主人はサウナへ、三人が残った。「あんた、いつも一緒でええなあ」「そんな事ぁありゃあせんで」「家ではどうなン?」、ここでそのご婦人私のほうを見て、「殿方の前でこんな話をしちゃあいけんなあ」、私が「いいえ、聞こえませんからどうぞ」と言うと再び話し始めた。「○×△#$%」「□○♪&%$」「###○○○」、、、。(2014年春詠)

浅春の日差す所にプランター

プールだからロッカールームで全員が着替えます。見ていると立って着替える人と、ベンチに座って着替える人がいます。どうもそこが老人の一つの境目のような気がします。もちろん、女性のロッカールームは覗けませんので、男性の場合の話です。あの、俳句を草田男に採られたことがあるという方は、「若い頃に私の祖父さんが座って着替えるのを見て、なんで座って着替えるんじゃろうか、だらしねえなあと思ようたら、いつの間にか自分がそうなっとった」と。別の東北訛りの男性は「ぁあ、もう!どうにもこうにも身体が動かん!時間がかかってしょうがねえなあ。人間八十を越えたらいけませんわァ」と、この方はまだ自分がその年齢になったことに納得がいかないようです、、、。(2014年春詠)

峡ひとつ隠して春の時雨かな

プールのシャワールームからシャボンが匂い鼻歌が聞こえてくる。もしやと思っていたら、案の定出てきたのはあの山小屋暮らしの仙人だった。ずいぶん見かけないので仙人暮らしを止めて大阪に帰られたか、はたまた山小屋で息絶えておられるのではないか、などと心配していたのだが。「久しぶりですね」「おゥ、こんにちは」「お元気でしたか?」「いやあ、風邪をひいてねえ」「インフルエンザですか?」「いや、ただの風邪なんだが、治らなくてねえ、結局二ヶ月ほど寝とったよ」「二ヶ月ですか!医者へは行かれたんですか?」「ああ、行った行った。医者の話では死ぬ手前だったらしいよ。ワッハッハ」「そうですか、まあ治って良かったですね。お大事に」そう聞いて、改めて見ると、確かに前より一回り細くなって、体系はますます仙人に近くなっていた、、、。(2014年春詠)

立春の卵産んだと鶏の声

養鶏場は別として、鶏を飼う家は少なくなってしまった。掲句の鶏ぐらいのものだろう、この近くで飼われているのは。少し遅めに朝の散歩に出ると、ちょうど卵を産む時間ぐらいになるのだろう、田圃の向う側の農家の辺りから、得意そうな大きな声が聞こえてくる、、、。さて、立春には卵が立つという話はホントかウソか、実際に試した事がありますか、、、?(2014年春詠)

待春や声の元気な郵便夫

私が子供の頃の郵便配達は自転車でした。朝から配り始めて、一日かけて山奥の行き止まりの家まで配るのですが、私の家に来るのがちょうどお昼頃でした。だから郵便屋さんはいつも私の家でお弁当を食べていました。お弁当を食べて一服して、家の大人たちと世間話をして、それからまた出発して行くのでした。それは配達が自転車から赤いバイクに変わるまで続きました、、、。掲句、久しぶりに「郵便です!」の元気な声を聞いた時の句、もちろん「ご苦労様!」も元気に返しましたよ、、、。(2013年冬詠)

雪晴や天の明るさ地が返し

雪晴の日は空と地上の両方から光が来て、まぶしさが二倍になります。今は昔、子供が小さかった頃には、年に何度かスキーに連れて行きました。と言っても自分のほうは滑らない(滑れない)ので、雪原に腰を据えて雪晴を楽しみながら缶ビールを飲んで時間をつぶしていました。子供が滑るのに飽きた頃にはちょうど酔いも醒めて、さあ帰ろうと腰を上げるのですが、今では考えられないことですね、、、。(2013年冬詠)

ゴルファーの一枚脱いで春隣

散歩に行く吉井川の河川敷の公園でゴルフをする人がいます。河川敷の公園でゴルフをして良い訳が無いし、こちらもそれなりの年配になったし、おまけに見た目の怖そうな大きな黒い犬まで連れているので、平気で図々しくゆっくりと間を通って行きます。さすがに通り過ぎるまでに構わずに打ってくるようなゴルファーはいませんが、ゴルフならゴルフ場へ行けと言いたくなります。そうそう、こういう時はわざと帰りも同じコースを歩きます(笑)、、、。(2013年冬詠)