去年よりコスモス増えし父の墓

父が亡くなり、一周忌に合わせて墓を作った。ついでに祖父母や曾祖父の墓の周りも周囲も整備してもらい、墓地全体がきれいになった。次の年にどこから来たのか、墓地の隅に一本のコスモスが咲いた。「きれいだね。度々も来られないないからちょうどいいね。このままにしておこうか」ということでそのままにして置いた。それから年々、コスモスは少しずつ増え続け、母の亡くなったこの年には、とうとう墓参りの邪魔になるほどになってしまった、、、。今は少しだけ残して抜くようにしています。コスモスに囲まれた墓もいいけれど、、、。(2011年秋詠)

プレハブの組合事務所ちちろ鳴く

社歴からも建てたときから中古だったのだろうと思われるプレハブの組合事務所。夏は暑く冬は寒い。入口の引戸からしてまともには開かない。閉めれば斜めに閉まって隙間が開く。入れば今にも抜けそうに軋む床。背もたれの破れた壊れかけのパイプ椅子。インクの匂う輪転機と山積みされたビラ。紫煙の渦、、、。入社したのはまだ組合活動華やかなりし頃だった、、、。(2002年秋詠)

風通るカルスト台地蕎麦の花

新見市の草間台地は吉備高原にあるカルスト台地で、国道313号線から急峻な坂道を登ったところにある。坂は急峻だが、登ってしまえば広々とした台地に蕎麦畑が広がっている、、、。入社したての頃ここに小さな外注工場があった。農家の牛小屋を改造した作業場で、近所の女性を集めて電気製品のプリント基板を組み立てていた。ラジオ放送を流しながら、話し声が絶えない仕事場だった。そこに指導に行くのだが、お昼には近くに食べるところが無いからと、母屋で社長の家族と一緒に手料理をご馳走になった(社長、お爺さん、お婆さん、社長の小さな子どもたち、それに従業員の一人でもある奥様、、、)。作業場の外には大きな柿の木があり、その下が駐車場になっていた。夕方仕事を終えて帰ろうとすると、車のフロントガラスに大きな熟柿が落ちて潰れ、四方に散っていた、、、。(2002年秋詠)

濁り水山湖の秋を隠しけり

国道429号線を通ると旭川ダムの側を走る区間がある。ここが一番の難所で、片側がダム、片側が山を削った曲がりくねった細い道で、対向車があると止って待たなければならないようなところがしばらく続く。なかなかダム湖の秋を楽しみながらとはいかないが、ちらちらと伺いながら走るぐらいは出来る。掲句、確か台風の後だったと思うが、いつもなら山の季節を映しているダム湖が上流からの土砂で濁っていた。せっかくの秋が、、、。(2011年秋詠)

山椒の実いつも鳴く犬出払ひて

徒歩通勤の途中の柴犬、毎日通るのに毎日吠えられ、それが習慣になっていた。「お前のほうが後から住み着いたのに、うるさいぞ!」と、からかってやると余計に吠えるが、しっかりした鎖で繋がれているから大丈夫。それがある日、犬小屋が空っぽになっていた。「あれっ、どうしたのかな?」と庭を見渡すと実の生った山椒の木があった、、、。しばらく行くと、お婆さんに連れられておとなしく散歩するその柴犬に出会った。いつもと違い澄ました顔をしていた、、、。(2010年秋詠)

色見本繰ればいろいろ秋深し

色見本だから色がいろいろあるのは当たり前ですが、、、。アンソロジーの表紙を決めるために借りた紙の見本帳を眺めての句です。次から次に出てくる微妙に異なる色、これはこれで悩んでしまう。この時は結局どの色にしたのだったろう、、、?(2010年秋詠)

親に似ぬ子どもであれよ運動会

私は幼い頃は身体が弱かったので運動会は苦手だった。幸いもう一人遅い子がいたので、びりから二番目だったが、出来れば走る競技からは外れたいといつも思っていた。そんなだから、自分の子どもたちにもずいぶん心配したが、どうってことは無かったようだ、、、。(2002年秋詠)

高く舞ひやがて帰燕となりゆけり

帰燕の最終便がいつなのか知らないが、晩秋の燕は、日暮を惜しむように暗くなるまで高いところを舞っている、、、。昔(掲句よりずっと以前、子どもが小さかった頃)、子どもを外人女性の英語教室へ通わせたことがある。町外れの田圃の中の貸事務所を使った夕方からの小さな教室だった。終るまでの時間を駐車場の車の中で潰すときに時々空を眺めた。晩秋にはちょうど夕暮と重なり、暗くなっていく空に点のようになって舞う燕の姿が見えた。燕は見慣れた鳥だったが、暗くなるまで、それも点になるほど高いところを舞う鳥だとは、それまで知らなかった、、、。(2010年秋詠)

秋深む朝の目覚めの肩口に

さすがに朝晩は寒さを感じるようになりましたね、、、。掲句はまだ働いていた頃、日々順調で、気持ち良く目覚めて仕事に出かけていた頃です。寝覚が良くないとこうは感じられない。最近はどうも良くない。早くから目覚めて、悶々といろいろな事を考えてしまう。そのうち外が白み始め、突然鵙の大きな声がしたりする、、、。(2010年秋詠)