すがり来て蟷螂の腹やはらかし

蟷螂のお腹の中には別の生物がいるのをご存知だろうか。ちょうど輪ゴムを切ったぐらいの太さと長さの糸状で、黒い色をしている。輪ゴムのように丸まったり、伸びたり、クネクネと不気味な動きをする。少年時代には何度も見たが、見るまでの過程は書かずにおこう。(2008年秋詠)

威銃犬と一緒に撃たれけり

午前七時、朝の散歩の心地よさに浸っていると、川向こうの田圃の陰からいきなりドーンと、その年の最初の一発が鳴り響いた。驚いたのなんの、犬と一緒に跳び上がり、心臓も飛び出しそうだった、、、。昔の威銃は風情があった。太い孟宗竹を切った手作りの筒に、カーバイトを入れ薬缶の水を注ぐ、アセチレンガスが発生した頃合を見計らって、火を点けたマッチを放り込む。ドーン!これを繰り返す。まあ大人の火遊びといった所で、子供たちは耳を押さえながら見ていた。(2008年秋詠)

すいつちよの足置いて行く青畳

開け放った田舎の家では、夜にはいろいろな訪問者があります。度々訪れるのがすいっちょ(馬追)です。しょっちゅう入ってきては、部屋の隅で突然鳴き出します。後足は太く跳躍力も強いのですが、なぜか脆く、逃がそうとしたりするとすぐに足が取れてしまいます。(2008年秋詠)

灯籠の一夜回りし灯を落とす

今年は母の初盆です。父の時は母がいましたので、母の言う通りに動いて済ませましたが、今度はそうは行きません。幸い近所にも親戚にも煩い人がいませんので、兄弟で相談して、簡単に質素に済ませることにしました。古いしきたりが悪いとは思いませんし、出来ることはやりたいのですが、なにぶんにも家を離れていると、やはり難しいことですね。(2008年秋詠)

夏河原骸となりし物臭ふ

夏の河原を歩いていると、どこからともなく死臭がしてくることがあります。それは子どもの頃から何度も経験してきたことなので、だいたいどんな動物なのか想像がつきます。特に蛇は、言葉では表せませんが、独特の死臭でそれとわかります。問題はわからない臭いで、夏の生い茂った草の中から得たいの知れない臭いがしてきた時には、身構えることになります。まさか、人の死体ということはないでしょうが、、、。(2008年夏詠)

鳴く声の数ほどあらず蝉の殻

気候の差によるのだろうか、岡山県内でも北部と南部では真夏に鳴く蝉が異なる。県北ではアブラゼミが主流であるが、県南に行くとクマゼミが主流となる。どのあたりが境になるのだろう。わが故郷成羽ではアブラゼミだった。岡山市津島にある運動公園ではクマゼミとなる。中学生の夏に登った天神山(高梁市)で初めてクマゼミの声を聞いた記憶がある。どちらも暑そうな声に変りはないが、アブラゼミのほうが少し優しいかな。(2008年夏詠)

鳥鳴いて鳥が応ふる梅雨晴間

吉備津神社の裏山に「あじさい園」がある。急な斜面にたくさんの紫陽花が植えられており、紫陽花を見ながら細い山道を登るのだが、これが結構しんどい。登りきったところに岩山宮という小さな社がありベンチが置いてある。ここに腰を下ろして下界を見下ろしていると鳥の声がする。四十雀だろうか、山の上のほうで声がすると、それに応えるように下のほうからも声がする。これが何度も何度も繰り返されるのである。(2008年夏詠)

炎昼を運ぶ右足左足

暑い日でした。通用口を出て次の通用口までの僅かな距離がやけに長くて、なんでこんな日に外を歩くことを選んだのかと思いながら炎天下を歩いた時に出来た句。右足も左足も自分の足ではないようで、次は右、次は左と、自分に言い聞かせながら足を運んだ。まあ、俳句が詠めるぐらいだから、外で仕事をされる方に比べると、ずいぶん楽なんですがね。(2008年夏詠)