天に地に空あり代田広ごりて

農作業を観察してみると、前日の夕方までに代掻きを済ませ、翌日朝から田植というケースが多い。夕方の代掻きが済んだばかりの田には濁りがあるが、一晩たつと落ち着いて澄んだ色となる。それを散歩の土手の上から見ると、ちょうど昇りかけた朝日の光の角度によるのだろうか、まるで上下に空があるようにきれいに映って見える。前日の夜に、遅くまでトラクターの音が響いていると思っていたら、一晩でこの風景が出現するのである。それも兼業農家が多いからだろうか、合わせたように一斉に休日に、、、。(2013年夏詠)

夏蝶の二頭もつるることもなく

とある午後の土手の並木の木陰での景、大きいから落ち着いている訳でもないだろうが、黒い揚羽が二頭、優雅に舞っていた、、、。定説は無いようですが、なんで蝶は一頭、二頭と数えるのでしょうね、、、?(2013年夏詠)

川に犬入れて見てゐる薄暑かな

ラブラドールレトリーバーはどの犬も水が好きなのかと思ったがそうでもないらしい。近くの表具屋さんのところのラブラドールは、「水は苦手だけど走るのは大好き」と、いつも自転車と一緒に走り回っている。だからかどうか、うちの愛犬「もみじ」よりずいぶんスマート。うちの「もみじ」は真冬でも水に入りたがるぐらいに水が好きだが、「いくらなんでも後の手入れが」と、こちらの都合で禁止、五月から解禁となる。で、土手から少し降りた川の中に首まで浸かり、上目づかいにこちらを見ているのだが、この時季になると、それを見ているこちらの額には汗が滲んでくる、、、。(2013年夏詠)

吸ひ込まれさうな気のする夏のダム

勢いよく水を吐く夏のダムを上から覗いていると、なんだか吸い込まれそうにな気分になって来る、、、。この項を書こうと、もう一度苫田ダムを見に行ったら、吸い込まれそうな放流はしていませんでした。が、放流は無くても、やはり吸い込まれそうでした。今回は下から見てみようと、下流からダムの下まで行ってみました。あまり訪れる人は無い雰囲気でしたが、なんと河鹿蛙の声が聞こえるのです。これはたぶん穴場じゃあないかと思います。もっとも、これを読んでいただいている方には、たぶん縁のない場所ですね、、、。(2013年夏詠)

艶やかに光返して夜の新樹

何より外から帰った時に灯りが欲しい。それに防犯の意味もある。ということで、家の周囲に何箇所もセンサーライトを付けています。通りがかるとパッと明るくなって、離れると暗くなるというやつです。確かに便利なのですが、感度の調整が難しい。風に木の枝が揺れても灯る、野良猫が通ると灯る。で、夜中に突然玄関の外が明るくなったりすると、結構ドキッとするものです、、、。でもこの時季外に出ると、途端に応えるように、闇の中から木々の緑が返してくれる光は、なんとも言えず柔らかく美しい、、、。(2013年夏詠)

どの路地を行くも潮の香浦の夏

宇野港での句。海の傍なんだから当たり前ですが、山の中で暮らしていると、潮の香りぐらい新鮮なものはありません、、、。同じように、海の近くで暮している人は、山の中に行くとむせ返るような緑の匂いを感じるのでしょうか、、、。(2013年夏詠)

三尺寝さそふベンチの風であり

宇野港での句。豪華客船近くの日陰に置かれたベンチに座り、海からの風を受けていると自然と眠くなってしまう。いやいや眠ってはいられないぞ!昼食と句会が待っている。昼食と句会は「どてきりや」さんという坂の上の洒落たお店でした、、、。(2013年夏詠)

客船の夏のカンバスはみ出せり

宇野港での句。埠頭の端っこまで行くと、外国の大きな客船が停泊していた。白い船体がまるで眠っているようだった。どのくらい大きいかと言うと、比較するものが無いのでわからないが、写そうとしたらカメラに入りきらなかった。フェンスが設けられ、制服の警備員が何人も立っていて船体には近寄れなかった。だからきっと、豪華な客船なんだろう。船旅も良いだろうなあ、豪華でなくても、、、。(2013年夏詠)

人なくて薄暑の広場ただありぬ

宇野港での句。瀬戸大橋が出来るまではフェリー待ちの多くの車で賑わっていたのだろう。しかし今はその面影は無く、駅前から埠頭へかけて空地が広がっている、、、。高速道路も瀬戸大橋も無かった時代にも何度か車で徳島まで出張したが、津山から片道6時間ぐらいかかっていた。だから宇野から高松へのフェリーでの1時間が貴重な休憩時間になっていた。おまけに運転が下手ということになっていた私がハンドルを任される心配はなかったので、私はこの時とばかりにしっかりと船旅を堪能出来たのである、、、。(2013年夏詠)