川の鳥一斉に発つ鷹の影

散歩の途中、百羽をゆうに越える川の鳥たちが大きな羽音をさせていっせいに飛び立った。何事かと驚いていると大きな鳥が一羽、鷹だった。大きさは鳶と同じくらいだが、羽ばたきとスピードが違う。もっともこの時は鳥を襲おうとする意思はなかったのだろう、川の上を悠然と通過し、南の山上へと消えて行った、、、。(2016年冬詠)

完璧と思へど曇り竜の玉

子供の頃田舎では「クスダマ」と言っていました。細い竹でクスダマ鉄砲を作り、その玉として使っていました。最適なのは程よい大きさと、傷の無い実です。それに何よりそのほうが美しい。そんな記憶があるからでしょうか、今でもついつい完璧な物を探してしまいます、、、。(2016年冬詠)

北風やコークス匂ふ街の空

まだ務めていた頃、北風の強い冬の日に外に出るとどこからともなくコークスの匂いがしてくる事がありました。冬雲の隙間から時々薄日が差して、隣の工場の金属の旗竿がゆれる旗紐に打たれてカンカンと音を立てている。そんな日です。昔のストーブの、暖かい何だか懐かしい匂いです、、、。(2016年冬詠)

解体のビルの槌音暮早し

近くにあった元工場兼ショールームのような建物でした。長い間に表の広いガラスが割れ、スプレーでの落書きが目立つようになっていました。その解体作業、三日ほどだったでしょうか、きれいな平面が出来上がったのは。解体の技術に感心したものです。あれから一年、その後はいまだに平面、、、。(2016年冬詠)

竹垣をこぼれ山茶花まつ盛り

昔、この地に引っ越してきた頃、近くに小さな造り酒屋がありました。高い煙突があって、表の広い入口を入ると染み付いたお酒の匂いがして、声をかけると奥から上品なお婆さんが出てこられる酒屋さんでした。ほどなく造るのを止められ、しばらく売店だけをされていましたがそれも止められ、古い建物を一掃して竹垣のあるしゃれたお屋敷が出来上がりました。思い起こせばその新しい家になったのも、もう十年以上前になるのです。奥へ奥へと路地に沿うその竹垣が少し崩れて間から内側の山茶花が零れ、、、。(2016年冬詠)