濁り水山湖の秋を隠しけり

国道429号線を通ると旭川ダムの側を走る区間がある。ここが一番の難所で、片側がダム、片側が山を削った曲がりくねった細い道で、対向車があると止って待たなければならないようなところがしばらく続く。なかなかダム湖の秋を楽しみながらとはいかないが、ちらちらと伺いながら走るぐらいは出来る。掲句、確か台風の後だったと思うが、いつもなら山の季節を映しているダム湖が上流からの土砂で濁っていた。せっかくの秋が、、、。(2011年秋詠)

山椒の実いつも鳴く犬出払ひて

徒歩通勤の途中の柴犬、毎日通るのに毎日吠えられ、それが習慣になっていた。「お前のほうが後から住み着いたのに、うるさいぞ!」と、からかってやると余計に吠えるが、しっかりした鎖で繋がれているから大丈夫。それがある日、犬小屋が空っぽになっていた。「あれっ、どうしたのかな?」と庭を見渡すと実の生った山椒の木があった、、、。しばらく行くと、お婆さんに連れられておとなしく散歩するその柴犬に出会った。いつもと違い澄ました顔をしていた、、、。(2010年秋詠)

色見本繰ればいろいろ秋深し

色見本だから色がいろいろあるのは当たり前ですが、、、。アンソロジーの表紙を決めるために借りた紙の見本帳を眺めての句です。次から次に出てくる微妙に異なる色、これはこれで悩んでしまう。この時は結局どの色にしたのだったろう、、、?(2010年秋詠)

親に似ぬ子どもであれよ運動会

私は幼い頃は身体が弱かったので運動会は苦手だった。幸いもう一人遅い子がいたので、びりから二番目だったが、出来れば走る競技からは外れたいといつも思っていた。そんなだから、自分の子どもたちにもずいぶん心配したが、どうってことは無かったようだ、、、。(2002年秋詠)

高く舞ひやがて帰燕となりゆけり

帰燕の最終便がいつなのか知らないが、晩秋の燕は、日暮を惜しむように暗くなるまで高いところを舞っている、、、。昔(掲句よりずっと以前、子どもが小さかった頃)、子どもを外人女性の英語教室へ通わせたことがある。町外れの田圃の中の貸事務所を使った夕方からの小さな教室だった。終るまでの時間を駐車場の車の中で潰すときに時々空を眺めた。晩秋にはちょうど夕暮と重なり、暗くなっていく空に点のようになって舞う燕の姿が見えた。燕は見慣れた鳥だったが、暗くなるまで、それも点になるほど高いところを舞う鳥だとは、それまで知らなかった、、、。(2010年秋詠)

秋深む朝の目覚めの肩口に

さすがに朝晩は寒さを感じるようになりましたね、、、。掲句はまだ働いていた頃、日々順調で、気持ち良く目覚めて仕事に出かけていた頃です。寝覚が良くないとこうは感じられない。最近はどうも良くない。早くから目覚めて、悶々といろいろな事を考えてしまう。そのうち外が白み始め、突然鵙の大きな声がしたりする、、、。(2010年秋詠)

走り蕎麦まづはカメラで食しけり

これはテレビで紹介されたことのある、あるお蕎麦屋さんで見た風景です。マニアの方でしょう、立派なカメラでした。私も撮ることがありますが(携帯で)、たいていは食欲のほうが先で、箸のほうに手が伸びてしまいます、、、。お蕎麦屋さんもずいぶん増えましたね。雑誌の紹介記事を見たりして時々行くのですが、正直なところ一度っきりになるところが多いです、、、。(2009年秋詠)

晩秋の日だまり猫のここちかな

猫はそれぞれ特等席を持っており、十分に晩秋の日差を楽しんでいる。そんな猫のような気分で、、、。さて、「ボスの命は短くて」、また一匹のボス猫が世を去った。正確に覚えている訳ではないが、一年ほど前だったろうか、首輪の鈴を鳴らしながら颯爽と登場した茶色の若い猫、すぐに頭角を現してボスに治まった。飼われるのが嫌で逃げてきたのか、やがて首輪の鈴も取れ毛並も薄汚れて来たが、風格は増すばかり、じろりとこちらを睨んでは、尻尾をピンと立てたまま、塀の上をゆっくりと歩いていくのだった。それが大怪我をして隣の玄関前で動けなくなっていたのが一週間ほど前のこと、隣の空いていた犬小屋で様子を見ていたが、水も飲まず餌も食べず、四日ほどで亡くなってしまった。猫はボスになると行動範囲も広がり、仕事も増える。勢力争いによる怪我とも輪禍とも分らないが、なんとも短いボスの座であったことだろう。そして、新たな二匹の、次のボスの座を賭けてだろう、我が家の夜の庭には争う声が聞こえている、、、。(2009年秋詠)

店員の語尾長かりし秋暑し

今年はいつまで暑いのでしょう。10月9日の句会での当日句です。前夜通り過ぎた台風24号の余波で朝から暑い日でした。Tシャツ一枚で歩いても汗が出てきました。暑くても食べる物は食べないと、と入った食堂での句です。エアコンの風が気持ちよかった。たちまち汗は引いて、A定食をしっかり頂きました、、、。ほんとうはそんなに長くはなかったのですが、狭い店じゅうに響くお姉さんの甘ったるい声に、ついこんな句を詠んでしまいました。ごめんなさい、、、。(2013年秋詠)