水鳥の羽繕ふも水の中

水鳥は水の中に居ても、そんなに寒くはないのかも知れませんが、それでもやはり暖かい日は楽しそうに見えます。おしゃべりも多いし、追掛っこをしたり潜ったり、それぞれに日差を満喫しているようです、、、。静かに羽を整えているのは母鳥なのかなあ、、、。(2011年冬)

時雨るるや茶店に紅き小座布団

衆楽園の中に小さな茶店がある。開いていたり閉まっていたり、しばらく続けて閉まっていると思っていたら、ある時通ると店の女主人が替わっていた。だいぶ若返っていた。以後はずっと開いているのかと思ったがそうでもなさそう、、、。この時は時雨の来るような寒い日で、表のガラス戸は閉まっていたが、軒下の縁台にはお決まりの赤い小さな座布団が並べられ客を待っていた、、、。(2012年冬詠)

すつぽりと村を収めて冬の虹

さあーっと強い時雨が襲ってきた。近くにあったお堂の軒下を借りて雨宿り、待つほどでもなく雨は過ぎて行った。さあ帰ろうかと外に出ると虹が出ていた。珍しく両端から頂まで弧を描いているのが見える大きな虹だった。その下を時雨が日を受けながら去って行った、、、。(2012年冬詠)

枯木立ベンチに犬と老人と

阿南公園はホテルから100メートルほど離れたところにあった。大きな山の中腹ぐらいまでが公園になっており、冬のせいか早朝には出会う人もほとんどない寂しい公園だった。それが気に入り、ここを知ってからはもっぱらここを散歩コースとした。数少ない出会う人の中に掲句の老人と犬があった。最初はすれ違う時に挨拶する程度だったが、ある朝少し登ったところにある神社の前のベンチに老人と犬が座っていたので声を掛けてみた。珍しい犬だと思っていたら四国犬とのことだった。四国犬に関する知識は全くなかったのでただただ聴くだけだったが、犬は自分の話と知っているのか、おとなしく老人に寄り添っていた。久しぶりに仕事を離れた会話をしたような気がして楽しかった、、、。(2011年冬詠)

通訳の手話軽やかに冬ぬくし

四国赴任中の2ヶ月間は、週末は津山へ帰り週明けに四国へ渡る生活だった。行程の中に入れた何ヶ所かのSAの一つ、瀬戸大橋を渡り高松自動車道をしばらく走ったところにある津田の松原SAでの景。観光ではなさそうな五六人のグループが、海に向った窓辺で談笑していた。中の一人が見える場所の説明をしている。他の人が聴きながら相槌を打ったり笑ったり、談笑をしている。その中の一人が自分も話に加わりながら一方で手話通訳をしていた。その手さばきの軽やかなこと、滞ることがなかった。どこかの職場仲間かも知れないなあと思った、、、。(2011年冬詠)

踏みしめて雪道我を突放す

北国では雪を踏み固めて通路を確保する。この作業を雪踏と言うそうだ。雪が少ないこの辺りには必要ない作業だが、降った雪が溶けずに通行人の足で踏み固められることはよくある。これは油断禁物、危ない。若いうちは転んでも笑って誤魔化せたがこれからはそうは行かない、、、。と、ここまで書いて十日前の句「ふみしめて土やはらかき霜のあと」(2013年、退職一年後の句)を思い出した。今日の句はまだ現役の気概があった頃の通勤途中の句、、、。(2010年冬詠)

霜の夜を走りてかろし猫の鈴

しんしんと言う音が聞こえそうな霜夜、突然部屋の外を軽やかに過ぎる鈴の音がした。例年節分を過ぎると待っていたように猫の恋が始まり、牽制しあう雄猫の声に夜の静寂が破られる。そろそろだろう、雄猫どもがそれに備えて雌猫にめぼしを付けて回るのは、、、。(2012年冬詠)

冬菜畑石で押さへる肥袋

農業をされている方の会話で「マルチ」という言葉がよく出てくるので、何のことかと思っていたら、よく畑に敷いてあるあの黒いビニールシートの事らしい。昔で言えばさしずめ敷藁だろうか。ほどよい間隔で穴が開いており、そこからイチゴや玉ねぎの苗がのぞいている。なるほど暖かいだろうし、草も生えない、敷藁よりよっぽど効果的だろう。問題は廃棄かな、敷藁なら土に帰るだろうが、、、。(2012年冬詠)